火火出見の混乱
ウガヤフキアエズの語義

orig: 2002/02/19

彦火火出見(ヒコ・ホホデミ)、という名前はニニギの尊の子(山幸)と、ニニギの尊の曾孫にあたる神武天皇にもついており混乱があるようだ。

系譜と周辺の人物の名前を細かく調べてみると、なるほど混乱が起きるほど似たようなことが幾つか出てくる。

本稿では、まず、それらの類似点を挙げて、それらが類似であると認めるならば、あるアイヌ語の句が実に意味が活き活きとしてくることを示そう。

ニニギの尊ウガヤフキアエズの尊
コノハナサクヤ姫玉依姫
海で溺れる・海幸海で死ぬ・稲飯命
本人彦火火出見尊(山幸)神日本磐余彦火火出見
豊玉姫姫蹈鞴五十鈴姫
妻の親海神事代主*玉櫛姫←三島溝咋
ウガヤフキアエズの尊ヌナカハミミの尊、他
子の妻子の叔母である玉子の叔母である五十鈴
神日本磐余彦火火出見磯城津彦玉手看
上表でかなり自明だが、少し解説してみると:

本人と示した山幸と神武天皇が「彦火火出見」を共通に持っていることが発端だ。

他の共通点としては:

・子の妻が子の叔母であること。
・その名前は、妻の名前に「依」が加えられていること。
・孫の名前に「デミ」が入っていること。
・関連の名前に「玉」か「鈴」が多いこと。
である。


上記に誘われて「ウガヤフキアエズ」と「ヌナカハミミ(とその兄弟)」に何か関係が無いか、と調べてみる。「ウガヤフキアエズ」とは産室に葺くべき萱が間に合わなかったか、葺くことが出来なかったからだ、という珍奇な由来になっている。

これをアイヌ語で解いてみると akup aykap (葺く・出来ない)となる。アイヌ語内部でも、母音+K+P という語調の良いものが得られるが、このアイヌ語を分解して行くと、ak=弟、ak=射る、ay=矢、などの語が入っていて、ヌナカハミミの兄、神八井耳が、異母兄の手研耳を射殺する手筈だったが、手足が震えて射ることが出来なかったという伝承がつながってくる。

もっとも、射ることが出来なかったのは兄の方で、弟が射って天皇に就くので、ak=弟、は考えからはずしてもよい。

つまり、(ウガヤ)フキアエズ、とは、弓・射ることあえず、なのだ。

参考までに愛冠(アイカップ)という地名が少なくとも三箇所北海道にある。いずれも、高い崖がはだかっていて、通行「できない」場所だという。そして、そこでは、「弓を・射ることが出来ない」という俗解めいた地名解釈もある。

すなわち、神代の彦火火出見尊と神武(異名の一つに彦火火出見)は同体、そして、ウガヤフキアエズと第二代綏靖天皇も同体、と考えられる。


もう一つアイヌ語を援用して考えてみるのは「三島」だ。すでに他所で述べているように「3」と「沖」はアイヌ語では rep で共通の音を持つ。つまり、三島と沖の島とは同じ音になる。上表で見るように本人の妻の親、または、さらにその親、を見てみると片や「海神」であり、片や「三島」=沖の島=海中となる。「溝咋」(みぞくい)が解けないのが弱いが、この二系統の伝承の相似を見ると、ここ(本人の妻の親)にも相似を求めてみたいのである。


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