ついつい、「ユーカラ」と言ったり書いたりしてしまうが、アイヌ語は yukar であるからカタカナで書くなら正しくは「ユカル」とすべきである。しかし半角カタカナを避ける必要もあり「ユカル」が良いのだろう。知里真志保は、『「ユカル」「ユーカル」までは許せるが「ユーカラ」は樺太方言で「歌」の意味しかない、しかしながら「ユーカラ」は日本語の外来語で yukar のことを言っているのだから、自分もその表記を使う』としている。
小生もサーチエンジンで引っかかって貰いたいので「ユーカラ」と書く。
知里真志保著作集2(p121〜)に「神謡」というタイトルでユーカラの分類が提示されている。地方によって異なる分類もあるようだが彼が捨象したところでは:
詞曲(ユーカラ) | 神々のユーカラ | 自然神謡(1) | 人文神謡(2) | 人間のユーカラ | 英雄詞曲(3) | 婦女詞曲(4) | となる。
自然神謡(1):
サクっと言って動物神、植物神、自然神、が主人公となって自叙するものである。yukar は多分 yuk kar に基づいていて、それは「獲物を・為す」→「獲物の・真似をする」が原義だろう、と考えられる。地方による差は、自然神謡のことを、胆振と日高の沙流では kamuy yukar ということ。この地方では yukar 単体では英雄詞曲(3)を意味することになってしまった為に、自然神謡(1)の方に形容詞を付けて区別している。また、この地方では、kamuy kar とも言う。「神のさまをなす」と解せる。 以後に混乱もして来そうだが北海道の中東北部から樺太では、自然神謡のことをオイナoynaという。他に sakoraw(美幌)、 sakorpe(天塩)、machukar(釧路、北見)、matnukar (北見)などとも呼ばれる |
熊、狐、貝、鯨、ありとあらゆるものが神と呼ばれ全く神の国である。 |
人文神謡(2):
オイナカムイ、アイヌラックル、サマイクル、オキクルミなどの名前で登場する人文神の物語である。金田一京助は、この中を更に3種類に分類する。即ち
- カムイ・オイナ:雄大、最大の説話。オイナカムイの出自、若い女神を魔神の洞窟から救いだし、人間文化の基を開くと共に、その女神と結婚する、という筋書き。
- ポロ・オイナ:日神が悪魔に囚われて世界が闇になるのを回復する勇壮な物語。
- ポン・オイナ:違う神を詐称してコタンコルカムイの妹を妻訪いして、その許婚の男神(ポロ・シリ・神)と争う物語。
である。 |
天照大神、日食、大山祇神などの要素と多少の共通点もありそう。参考:アイヌの大国主 |
英雄詞曲(3):
主人公は人間の英雄、ポイヤウンペ、正式にはポイ・シヌタプカ・ウン・クル、地方によってヤイラプ、ヤイエラプ、という名前の少年英雄の物語。幼くして父母を失い一族のものに育てられる。長じて異民族と壮絶な戦闘を繰り返す。敵中に美少女を得て、相たずさえて悪戦苦闘の末に故郷のむらに凱旋する。
一編短くても数千句、長いものは数万句に及ぶ。 |
日本の少年英雄ならヤマトタケルだろう。参照:スクナヒコ |
婦女詞曲(4):
女性が主人公の物語で「男女間の情事を謡っていて、やや小説的な内容に踏み出したものである」(知里真志保) | |
というご紹介まで。
以上は、知里真志保著作集2所収の『アイヌに伝承される歌舞詞曲に関する調査研究』「文化財委託研究報告」II、昭和35年、を参考にした。
次に、知里真志保著作集1に「アイヌの神謡(一)」は収められている『北方文化研究報告』第9輯、昭和29年、に発表されたときの彼の分類を紹介しておく。
アイヌの物語文学 | 韻文物語(詞曲) | 神のユーカラ(神謡) | カムイユカル(1) |
オイナ(2) |
人間のユーカラ(英雄詞曲)(3) |
散文物語(酋長談)(4) |
となる。
手元の資料でみると最初に掲げた分類が新しく、最後に掲げたものが数年古いようだ。両者の間には婦女詞曲と酋長談が出入りしている。
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