撞賢木厳之御魂天疎向津媛命 つきさかき・いつの・みたま・あめさかる・むかひつ・ひめのみこと |
異説との関係に就いては後ほど考察します。
いつものように(^_^)アイヌ語の調べをしておりました所、アイヌの方での重要な 神様である「火の女神」(ape huchi kamuy)の本名と言うのを見つけました。 この神様の機能には人と神の間の言葉の仲介をすることがあります。
さて、その本名は、いくつか異伝もあるようですが、
ape meru ko yan ko yan mat, una meru ko yan ko yan mat、 |
火 輝 * 上がる 女 灰 輝 * 沖から陸に向かう 女 |
火の輝きと共に、灰の輝きと共に上がってくる神、 |
なお、 yan は第一義としては「上陸する」ですが、広い意味では「現実の海や陸でなくとも、その関係にたとえられるような場合にも用いられる」との注記があり、中川辞典の meru の項では「炉端にやってくる」と解釈しています。ここでは、後段とのつながりもあり、同辞書 yan の項から「沖から陸に向かう」を採りました。
なんと、「天疎向津」と言う部分は、
天→アメ→ape(火) 疎る→(火が)盛る→meru 向津→陸地(港)に向かう→ko yan |
この神様は以前、仲哀天皇に、熊襲征伐は止めて新羅を取りなさい、と勧めていて、熊襲(先住民)に好意的、乃至、先住民保護の立場を取っているようで、或いは先住民の神様か、と想定を進める事ができそうです。
このアイヌの神名の後半は、これほど直接的には解釈は出来ないのですが、それでも、仲哀記(岩波だとp231)には、天照大神と住吉三神の要求として「真木の灰を瓠に入れ・・・・・大海に散らし浮かべて渡りますべし」という謎めいた託宣があります。岩波の頭注では、意味不明の呪術であろう、としてます。
日本書紀は「天疎向津」(上記のように「火」の要素が見られる)だけを記し、古事記は「灰」だけを記しているので、両者を合わせて「火」と「灰」の組み合わせを観察し、且つ、神と人の間の意志伝達にも関わっている話であることも考え合わせ、この神の神格は、ape huchi kamuyの神格と甚だ近いものをだったように考えられます。
前半の「撞賢木厳之御魂」(ツキ・サカキ・イツノ・ミタマ)は、まだ解けません。 「撞賢木」が「厳」に掛かる枕詞だ、と云う説(紀伝)を承っておくにとどめます。
「撞賢木・厳之御魂・天疎・向津・媛命」
「向匱・男聞襲大歴・五御魂・速狭騰尊」
語群(字群)の対比としては、
「厳之御魂」 | 「五御魂」 | 参考共通音:いつのみたま |
「向匱」 | 「向津」 | 参考共通音:むかひつ |
「天疎」 | 「速狭騰」 | 参考共通音:(あま/はや)さかり |
「撞賢木」 | 「男聞襲大歴」 | 対応関係未明 |
また、「撞賢木」と「男聞襲大歴」が対応の見当が付かないペアとして残ります。 この両語の音が同様の意味を持つような言語が見つかると良いと思っているのですが。
上記ペアから、「天」と「速」が対応(同義???)しそうな事も引き出せそうです。