国焼郷焼・2:逐語解析

orig: 2001/05/06


アイヌラックルの渾名を逐語解析してみようと思う。

mosir sitcire, kotan sitcire, oipepi poro, sanenkor suoyankep sani「国焼郷焼大椀額際鍋抱の子」(金田一京助全集十一アイヌ文学V:p305)
mosir sitcire, kotan sitciremosir や kotan は「国、島」とか「郷、里」というほどの事である。sitcire に就いて、田村辞書では、sir-ci-re と解析して、「地・焼け・させる」と解いている。ちょっと拘っておくとciには「枯れる」の意味があり、ci-re で「枯らす」になる。これはスサノヲの「海山を泣き枯らす」との関連へのコダワリである。
oipepi poroo =そこから+ipe=ものを食べる+p=もの=食器、椀、となり、最後に着いているiは所属語尾だから、この名前の持ち主の「お椀、食器、茶碗」ということだ。それが「大きい」と言っている。
sanenkor金田一は「額際」とした部分に「サネンコロ」と仮名を振っておりローマ字にしたのは小生だ(他も同じ)。サネンコロと額、が余り良くつながらない。知里真志保の分類・人類編に、san enkor に「クマの鼻っぱし」というのはある。san(前え出た)+enkor(鼻) と解いている。また、テシオで採集された語に kanenkor があり、これに「額」の意味がある。kan(上方の)+enkor(鼻)と解いている。これであろうか。このように「額」は辛うじて対応を確認できたが「際」は判らない。「額」は kip, kep, kip-utur などと言う。
suoyankep saniここは su=鍋、o=そこに、yanke=持ち上げる、p=者(の) san-i 子孫(所属形)で良かろう

同書p291の異伝:mosir sitcire, kotan sitcire, oipepi poro, sanka tososo, honokkasi suoyanke 「国焼郷焼大椀棚荒胸元鍋抱」
最初の例と違う処だけを示す
sanka tosososan=棚 ka=の上 tososo=を荒らす。
honokkasi suoyankehon=腹 okka=の上 si=(所属形語尾)(okka-si で、更にその上)

田村辞書p343 Kotan-sitcire
Kotan-sitcire村焼き
Mosir-sitcire国焼き
Sanka-tososo棚荒らし
Hon-okkasi腹の上
Opoysuyanke小鍋上げ
Oypepi-poro大茶碗
Kamuy ne an kur神になる人

第一例が sanenkor(額際)としている部分が後の二つでは sanka tososo (棚荒らし)となっている。どっちか、または両方が訛りに訛って間違いに至っているかもしれないのだが、何が本源だったのか。

国焼郷焼〜
モシレチクチク〜
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