み=水を考える

orig:2003/06/13
rev1:2003/09/07 ツ追加


『時代別国語大辞典上代編』から抜粋する。
み(甲類)

  • 水 ミ〜、またはミナ〜の形で複合語中にのみ見える
  • 神霊。 接尾語的に用いられる
  • 見ること。見た目。見ルの名詞形。
  • 妻(メ)の東国語形。
  • 三。
  • 御 接頭語 畏敬の念をもってものを指す時や物をほめたたえて言う時に用いる
  • 接尾語 形容詞の語幹に接して用いられる。(山を高み=山が高いので)
  • 接尾語 動詞連用形に接し、〜してみる意の副詞句を作る
(なお、乙類の「み」は、箕、廻、巳、に使われる。)

即ち「み甲」は「水」の意味をも表すが、単独では用いられず複合語(みなと、みくま、みなし川、など)だけに用いられる。この辞典では述べていないが、海(湖)の「うみ」も「大きな水」が原義であろうか、と思われる。(参照「大人=うし」「腕=大手?」「ウヒヂニ:スヒヂニ=大:小?」)

これにヒントを得て、「み」は(上代語では複合語だけに用いられるが)「川」の意味を持つ独立の語ではなかったのだろうか、と思う。

そこで、川の名前で「み」で終わっているものを調べてみる。

「地図でみる『日本地名索引』」ABOCC社のCDで検索してみると、川、で終わる地名は4万余りある。同じ川に対して複数箇所記入される場合もあるし、川名ではなく町村名の場合もあろうから、純粋な河川名の数はこれの半分以下であろう。

そのうち「*みかわ」という読みで終端する地名は1159ある(約3%)。こちらも川名の実数としては半分以下であろう。また、「川」を外して、固有名詞部分がどういう音で終わるか、を考えると、平均では1/48(清音の数48)であり約2%である。「み」で終わるものが3%というのは平均の約1.5倍ではある。格別多い、と言えるかどうかは、もっと調べてみる必要がある。

いくつか実例を拾ってみると:

相見川: 相見 で既に 相川 の意味になってはいまいか

浅見川: 浅見 で既に 朝川 の意味になってはいまいか

蘆見川: 蘆見 で既に 蘆川 の意味になってはいまいか

という発想である。

大見川 は要するに 大川 なのではないか

このように考えて行くと:

日高見国を流れる北上川はすでに「日高見川」のことであろうと考えられているが、更に、日高・み、で日高川を意味していたのではあるまいか、ということである。

*見川 という地名も43件出てくるが、何も「見る」こととは関係なさそうだ。

このように「み」が単独で「川」の意味を持っていた、と想定して、色々なことを考えてみようと思う。

この考えは、和語の多重性を考えているときに考え出した物であり、川を意味する語に「カハ」と「ミ」があったのではないか、ということになる。

なお、川名に含まれる「み」の全てが「川」の意味である、と言っているのではないことを念のため注記しておく。例えば、川上川。

2003/09/06追記
本稿を御覧になったある方からメールで、文献根拠は無いが「ツも川を意味しまいか」というご主旨のお尋ねがあった。これは、実は、大いにそそられる仮説なのだ。橋本進吉著『文字及び仮名遣の研究』には仮名文字の各種印影が写真複製されていて、著者による起源推定が書いてある。例えば「せ」は「世より」、「ほ」は「保より」などだ。その中に「つ」と「ツ」は「川よりか」としているのだ。実際、印影の「つ」や「ツ」は「川」に近い筆跡になっている実例があるのだ。そして、確かに(と言うか、私には)「つ」「ツ」の形がどこから来たものか想像だに出来ない。
河川のことを「ツ」と言った名残り、と考えたい欲求に駆られる。しかし、多分、証明はおろか、追加的状況証拠も出せそうにない。しかし、しかし、魅力ある仮説だ。
和語の多重性、という視点から整理すれば、河川の意味の和語には、「かは」以外に、「み」「つ」(+もっと?)あったか、ということだ。

参考:常陸風土記:

  • 信太郡:細注:「器杖(俗曰 伊川乃)」、これで「いつの」と読む
  • 久慈郡:細注:「加支川爾(かきつに){頭注:色を描き付ける土の意か}」

  • ツとト(甲類)の研究
    Homepage & 談話室への御案内
    目次へ戻る
    メールのご案内へ