樂語(らくご)散歩

orig: 2005/09/26
update:2005/10/23 grazioso追加、forte書き足し


樂語、もちろん、がくご、と読むのだが私の場合は らくご・・・

ことば、というものには、一つの意味しかない、ということは先ずないだろう。「赤」と言っても巾があるし、「暑い」と言っても何の物理的温度が何度以上、と決まったわけでもない。

これがまた、外国語の場合には、日本語に一対一に対応するコトバがある筈がない。英語の hot が少なくとも「暑い」と「辛い」に対応する、という一例を挙げておこう。

樂語の場合も、イタリー語(伊語)で付けられたものもあろうし、それはラテン語に遡れるのかもしれない。一つのコトバ毎に周辺の言語でどのような意味合いで使われているのかを知ることが本義に迫る方法の一つだろう。

そんな感じで、すこしずつ、書き足して行こうと思う。先日、ある講義で、たまたま agogik と Zasur が出たので、これらをAの始まりとZの終わりとして、おもしろがってくれる人が居られるようなら随時 間を埋めて行こうかと思う。いつまで続くか・・・・

はじめに、の代わりに:芸術/技術は長く、(人の)生命は短し
ラテン語:Ars longa, vita brevisvita ビタミンなど。brevis 英語 brief
英語:Art (is) long, life (is) short
ギリシャ語:(翻字)o bios brachus, he de techne makrebios=life, brachus=brief, techne==>technology/technique, makre/makra=long (large)
特記したいのは:ラテン語 ars の部分がギリシャ語 techneが対応していること。つまり、「アートと技術」というと、日本語内部では一見「文系:理系」という対比になりそうなことが、実は根源は一つ、という視点を持ちたいということ。
音律に数学が出てくるのも、純正和声にビートの考えが出てくるのも、温度があがるとピッチもあがるのも、・・・音楽と科学の切っても切れない関係、と言えよう。ピタゴラス先生が音律を考えたのもむべなるかな、である。
 

樂語散歩
agogikギリシャ語αγωγη(agoge)が語源という。意味は英語で bringing, trainingとあるが、なんだか良く判らない。αγω(ago)だと I drive, I bring, I conduct とある。何か自発的に物事を引っ張って行くニュアンスのようだ。テンポやリズムを微妙に変化させる、のだが、自発的に、というのがミソのようだ。
allegro「快速に、活発に、にぎやかに」(新音楽辞典・樂語)。英英辞典(COD)によると、Lively, gay; (movement) in brisk time、[語源は伊語]とある。Livelyは「生き生きと」が近いだろうか。gayはmirthだという、mirthを引くとmerriment だという、メリークリスマスのメリーだ、「喜び」のニュアンスが入ってくる。伊語の辞書がないので西語を見てみると alegrarという動詞があって「元気づける、喜ばせる」という意味合いがある。この手の語はラテン語に遡れそうなのだがCODは語源を伊語としており、なるほどラテン語辞書には見つからない。単に「快速」「活発」「快活」というよりも、音楽用語としてのアレグロとしては「元気づける、喜ばせる」という方面の捉え方が良さそうだ。そのようにした結果「快速、活発、快活」だったりするのではないか。
andanteandare=歩く、の現在分詞・動名詞、でしょう。お散歩の速度、と言うことでしょうね。某師匠とアンダンテの速度が違っていたことがあった。実験してみたら、やはり、彼の歩きが私よりも速かった。(^^;;;)
-etto接尾辞で、先行する語の程度が小さい、ということ。LarghettoはLargoの程度の小さいこと。AllegrettoはAllegroの程度が小さいこと。速度としては遅い方から順にLargo, Larghetto, Allegretto, Allegro ということになる
forte本来の意味は「力」、勿論弓を抑える力ではない。音色の「力」のことだ。英語のforceに相当する。
「力」というと power も思い起こすが、powerは「何々が出来る」というのが原義だと思う。(スペイン語なら poder)
forceは加速度を与えるもの、powerは時間当たりの仕事量、なんてのが物理での用法(区別)だが、音楽奏法理解の一助になるや???
沖縄のお嬢さん二人の「キロロ」というグループがあるが、これはアイヌ語に基づいている、と。kirorが「力」、kiroruが「(踏み固めた道)→立派な道」の意味。
grazioso優雅に、優美に:英語だと grace/graceful
スペイン語では gracias で「ありがとう」になる。元来、喜ばしい、魅力的な、とか、エレガント、洗練、などが意味範囲に入っている。
モナコ王妃になった女優グレース・ケリーなんざ、名の通り、なかなかエレガントであった。
piano伊語で「柔らかな」。ラテン語にはピッタリ来るモノがないが pia mater というと医学用語で「軟膜、柔膜」とあるので、やはり「柔らかい」ということだろう。「弱く」とはチョット違いそうだ。いずれにしても楽器を響かせる、というのは決して忘れてはなるまい。「柔らかく」響かせる、ということだろう。
largo伊語で「広い」。ラテン語large 寛大に、沢山に(英語の largeも同語源)
上のようなニュアンスを考えると、ただ物理的に「遅い」だけではなく、ゆったりとした感じが必要なのだろう。
これをもとにすれば allargando なんかも感じがつかめるのではなかろうか。
lento伊語だろう。ラテン語で lente は ゆっくり、そろそろ、静かに、とある。festina lente ゆっくり急げ、という格言は簡単だから覚えておくと良いかも。
sotto voce「声を和らげひそやかに」;beneath one’s breath;under the voice (in a subdued manner)subdue=和らげる・弱める。しかし、楽器はチャント鳴らしながらヒソヒソと、というのも難しい。
vivo/vivaceフランス語 vivamente,ならば英語 lively。これらの語を参考にすると、「生き生きと」という日本語の意味合いに、もう少し深味を与えられるかもしれないギリシャ語βιοsに相当。日本語の最近の流行、バイオ、もこれ。
Zäsurラテン語 caesuraのドイツ語への音写. [Fr.] césure or pauses, [Ger.] Cäsur, [It.] pause or cesura, [Sp.] cesura.
ラテン語 caesuraは、切れ目、句切りのこと。上にも見るように日本で「セスーラ」というのは仏・伊・西語の発音に近い。
余談:ラテン語caesuraはcaesar=シーザーに近いため、「切開手術」の意味なのにドイツ語で「カエサル手術」と翻訳してしまい、それを日本では「帝王切開」、と誤訳を引き継いだ、という。英語cissors鋏、もこのラテン語からの派生語。


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