樂語散歩
agogik | ギリシャ語αγωγη(agoge)が語源という。意味は英語で bringing, trainingとあるが、なんだか良く判らない。αγω(ago)だと I drive, I bring, I conduct とある。何か自発的に物事を引っ張って行くニュアンスのようだ。 | テンポやリズムを微妙に変化させる、のだが、自発的に、というのがミソのようだ。 |
allegro | 「快速に、活発に、にぎやかに」(新音楽辞典・樂語)。英英辞典(COD)によると、Lively, gay; (movement) in brisk time、[語源は伊語]とある。Livelyは「生き生きと」が近いだろうか。gayはmirthだという、mirthを引くとmerriment だという、メリークリスマスのメリーだ、「喜び」のニュアンスが入ってくる。伊語の辞書がないので西語を見てみると alegrarという動詞があって「元気づける、喜ばせる」という意味合いがある。この手の語はラテン語に遡れそうなのだがCODは語源を伊語としており、なるほどラテン語辞書には見つからない。 | 単に「快速」「活発」「快活」というよりも、音楽用語としてのアレグロとしては「元気づける、喜ばせる」という方面の捉え方が良さそうだ。そのようにした結果「快速、活発、快活」だったりするのではないか。 |
andante | andare=歩く、の現在分詞・動名詞、でしょう。お散歩の速度、と言うことでしょうね。 | 某師匠とアンダンテの速度が違っていたことがあった。実験してみたら、やはり、彼の歩きが私よりも速かった。(^^;;;) |
-etto | 接尾辞で、先行する語の程度が小さい、ということ。LarghettoはLargoの程度の小さいこと。AllegrettoはAllegroの程度が小さいこと。 | 速度としては遅い方から順にLargo, Larghetto, Allegretto, Allegro ということになる |
forte | 本来の意味は「力」、勿論弓を抑える力ではない。音色の「力」のことだ。英語のforceに相当する。 「力」というと power も思い起こすが、powerは「何々が出来る」というのが原義だと思う。(スペイン語なら poder) | forceは加速度を与えるもの、powerは時間当たりの仕事量、なんてのが物理での用法(区別)だが、音楽奏法理解の一助になるや??? 沖縄のお嬢さん二人の「キロロ」というグループがあるが、これはアイヌ語に基づいている、と。kirorが「力」、kiroruが「(踏み固めた道)→立派な道」の意味。 |
grazioso | 優雅に、優美に:英語だと grace/graceful スペイン語では gracias で「ありがとう」になる。元来、喜ばしい、魅力的な、とか、エレガント、洗練、などが意味範囲に入っている。 | モナコ王妃になった女優グレース・ケリーなんざ、名の通り、なかなかエレガントであった。 |
piano | 伊語で「柔らかな」。ラテン語にはピッタリ来るモノがないが pia mater というと医学用語で「軟膜、柔膜」とあるので、やはり「柔らかい」ということだろう。「弱く」とはチョット違いそうだ。 | いずれにしても楽器を響かせる、というのは決して忘れてはなるまい。「柔らかく」響かせる、ということだろう。 |
largo | 伊語で「広い」。ラテン語large 寛大に、沢山に(英語の largeも同語源) 上のようなニュアンスを考えると、ただ物理的に「遅い」だけではなく、ゆったりとした感じが必要なのだろう。 | これをもとにすれば allargando なんかも感じがつかめるのではなかろうか。 |
lento | 伊語だろう。ラテン語で lente は ゆっくり、そろそろ、静かに、とある。 | festina lente ゆっくり急げ、という格言は簡単だから覚えておくと良いかも。 |
sotto voce | 「声を和らげひそやかに」;beneath one’s breath;under the voice (in a subdued manner) | subdue=和らげる・弱める。しかし、楽器はチャント鳴らしながらヒソヒソと、というのも難しい。 |
vivo/vivace | フランス語 vivamente,ならば英語 lively。これらの語を参考にすると、「生き生きと」という日本語の意味合いに、もう少し深味を与えられるかもしれない | ギリシャ語βιοsに相当。日本語の最近の流行、バイオ、もこれ。 |
Zäsur | ラテン語 caesuraのドイツ語への音写. [Fr.] césure or pauses, [Ger.] Cäsur, [It.] pause or cesura, [Sp.] cesura. ラテン語 caesuraは、切れ目、句切りのこと。上にも見るように日本で「セスーラ」というのは仏・伊・西語の発音に近い。 | 余談:ラテン語caesuraはcaesar=シーザーに近いため、「切開手術」の意味なのにドイツ語で「カエサル手術」と翻訳してしまい、それを日本では「帝王切開」、と誤訳を引き継いだ、という。英語cissors鋏、もこのラテン語からの派生語。 |