アイヌ語の数詞
オーストロネシア語と関連?
orig: 97/09/11
rev1: 98/07/03 はたち、に追補+minor corrections
rev2: 2000/12/30 微修正+末尾にリンク
巻頭言で述べたように大山祇神、コノハナサクヤ姫、などに代表される先住民の言語が、現在のアイヌ語にその残照を保っているのではないか、との発想でこのHPが作られています。

それに関連する先学のお考えをピックアップして置きたいと思います。一つは「アイヌ語地名が北海道・東北以外にもあるのだろうか」との視点からまとめたファイル「地名・序」があります。

こちらのファイルでは、もう少し言語学的な色彩の濃いものを扱うツモリです。
主として、村山七郎著「アイヌ語の研究」(三一書房)を参考にしています。
同書の冒頭に於いて著者は、埴原和郎著「日本人の起源」から

「日本列島には古くから南アジア系の縄文人が住んでいました。ところが、まず北九州地方に北アジア系の人たちが渡来し・・・二重構造ができあがりました。・・・つまりアイヌと沖縄の人々は『縄文人を祖先とし、しかも渡来人の影響をほとんど受けていない』」

の一節を引いて、著者自身の研究経過と対比して、

「日本語とアルタイ語及び朝鮮語との比較研究によって日本語の起源を究明しようとしたが、日本語におけるオーストロネシア語的下層の究明なしには日本語の起源の問題は解決され得ないという考えに到達し・・・その過程においてアイヌ語の比較言語額的研究にも力をそそぎ、アイヌ語がオーストロネシア諸語と密接な関係にあり、同語族に属する可能性があるという見解に近づくにいたった。」

と述べています。


まず、アイヌ語の1から10までの数詞を掲げましょう。
shine, tu, re, ine, ashikne, iwan, arawan, tupesan, shinepesan, wan
これらの語源・造語方法に就いては、金沢庄三郎、金田一京介、知里真志保の研究を紹介して、概略次表のように述べています。
数詞アイヌ語解説
shine真・なる
tu語源不明.
reri 高い、中指
ineinne=多くの
ashikne手=ashke
iwaninne wan 10 - 4
arwanar wan 10 - 3
tupesantupes wan 10 - 2
shinepesanshine pe san 10 - 1
10wanu an = 両方(両手)ある
「減数法」: 即ち、1から5までの語源は置いておくとして、6から9までの造語方法に着目してみると「減数法」と呼ばれる方法で構成されていることが窺える。いま少し解説を加えるならば、

アイヌ語分解すると説明
iwani waniは4の語根に相当する部分であり、wanは10である。
arwanar wanar は3の re と関連しているであろう。
tupesantu pe san2・つ・10、の語群から成る
shinepewanshine p wan1・つ・10、から成る
この減数法は日本語には無いが、メラネシアのヤップ島(など)に見られる。朝鮮語に於いても7と8に関しては減数法が窺えるそうです。


「倍数法」: 参考までに日本語の数詞の造語方法の特徴は倍数法(自称かな?)です。つまり、

hitohuta1と2
mimu3と6
yoya4と8
itsu(i)tso*5と10、これは日本語のtoがtsoに
溯り得るかに係る

同様な造語方法は周辺言語には見当たらなかったが、ハンガリーのマジャール語(日本語とはウラル・アルタイ語族としての関わりがないでもないかも知れない言語)に多少残照があるやにみえることを発表したことがあります。


はたち:
20のことをアイヌ語では、hot,といい、 hotnep 20個、hotnen 20人、などと構成される。20以上の数を表すにも100=5*20、即ち、ashikne hot(ne) と言う。

日本語にはこのような20進法は明確ではないが「はたち」「はつか」にわずかに残っていそうである。この20を意味する語彙はどこから来たのだろう。。。


「重」について:
あるいは、十重二十重、などという中の「はたへ」は「はたち」と関連していないのだろうか。「はたへ」の「へ」もアイヌ語の pe と通じるものがあるのだろうか。 pe は「もの、者、物」の意味もあるが数詞に付くと、ひとつ、ふたつ、の「つ」に相当する。一重(ひとへ)、二重(ふたへ)、三重(みへ)、七重(ななへ)、八重(やへ)、十重(とへ)、二十重(はたへ)、などヒョットして、和語+縄文語、の混合語なのか、と興味を引かれます。

以上。

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アイヌの人々の数体系と四則演算