『後漢書東夷伝』の高句麗五部族名
東西南北に対応
orig: 2004/07/06
rev1: 2004/07/21 追記

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板橋論文P160には『後漢書東夷伝』に出てくる高句麗五部族名が東西南北と内に対応しているという白鳥・村山の説が紹介されている。即ち:
番号発音記号略記原典意味備考
(1) (68)jiuen na順奴東(左)
(2) (69)sien/kiuen na消奴西(右)消は涓の誤りと考えられる(板橋)
(3) (70)kuan na灌奴南(前)南は赤で火
(4) (71)juel na絶奴北(後)北は黒で水
(5) kueilu桂婁内(黄)
なるほど他で調べたように(末尾付録参照)「奴」は「ナ」に近い音でその意味は「壌」(国、土地)でありそうである(オホナモチの「ナ」に通ずる)。ここでも東西南北の土地をそれぞれの部が領有割拠していたものであろうか、と窺い知れる。

[2004/97/21:追記]高句麗本紀西暦22年7月に「椽那部」(上記五部の順奴部か絶奴部か)、32年に「沸流那部」(流と婁から桂婁部では?)「南部」(既に上記五部の名称が出てくる)、72年に「貫那部」(灌奴部か)74年に「桓那部」(桂婁部か{これは金思Y氏による})、132年と147年に「桓那部」「沸流那部」、165年に「椽那部」が見える。更に251年に「貫那」、254に「沸流那部」、256に「椽那部」が見える。(魏志が伝える時代であり、上の五部との整合が取れる筈だ。「那」が「奴」と同音であり、意味上「壌」に相当するのであろう。それぞれと上の五部との対応は音の類似による想像である。

それにつけても思い起こすのは『三国志・魏志』の倭人条に出てくる諸国名が「奴」で終わるものが多く見られることである。

高句麗の名称と対応するものがないか、無理矢理下表に整理してみた。

奴國
彌奴國
姐奴國順奴
蘇奴國絶奴(消奴?)
華奴蘇奴國灌奴
鬼奴國涓奴
烏奴國
奴國
狗奴國灌奴、涓奴


「狗奴」を更に考えてみる。
29童城縣*童子忽(一云山)縣[29童子忽縣(一云仇斯波衣)] 童子=仇斯、童=仇、子=斯?●
板橋#7は仇だけを童〜童子としている。
板橋#7により、「仇」(ク)が「童〜童子」の意味であれば「狗」も「子」を表してはいまいか。即ち「狗奴」とは「子国」である。して、親国は、というとやはり邪馬台国であろうか。そうすると、
  • 「男子爲王其官有狗古智卑狗不屬女王」
  • 「卑彌呼與狗奴國男王卑彌弓呼素不和」
の意味合いも親子での覇権争い、という色彩で観察することが出来そうだが、どうだろう。情報が足りなくてどうとも言えないのは相変わらずだ。
呼邑國、鬼國、躬臣國、支惟國 あたりと 高句麗の「桂婁」の音の近似もメモしておきたいポイントだ。

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付録: 「奴」の用例

巻35(高句麗地名リスト)より
9 郡(一云黄壌郡) *今勿 [9今勿内郡(一云萬弩)] 黒=今勿(板橋#14):壌=奴(板橋#34)
13 陰竹縣 *奴音竹縣   陰=奴音:∴11陰=仍=奴音●
22 *仍伐   5で壌=奴だから穀=仍伐。13仍=奴音●
32 *骨衣   壌=奴(ナ)だから荒=骨衣(板橋#19)
巻34(新羅地名リスト)より
S22軍威縣本奴同縣(一云如豆今因之
S66慈仁縣本奴斯火縣今因之