天の神神が地上の二人の少女を見ていた。雷神が落ちて彼女等を懐妊させた。一人はチキサニ(春楡)で「オイナカムイのアイヌラックル」を生み、もう一人はアトニ(おひょう楡)で「ユーカラカムイのポイヤウンペ」を生んだ。前者は春楡の樹肉が赤いことから「赤い顔」をしており、後者はアトニの木肌が白いことから「白い顔」をしている、という。 |
一方、山城風土記逸文、加茂社、は次のように述べる。
加茂建角身命と丹波神野の神伊加古夜日女の間に玉依日子と玉依比賣が生まれる。
玉依比賣は川上から流れてきた丹塗矢に感じて妊娠し男子を生み、加茂別雷命と名づける。この丹塗矢は火雷神である。 伊加古夜(イカコヤ)ヒメを解析してみようとしたが難しい。「伊加」は雷をイカヅチというその「イカ」であろうか。「コヤ」に関してはアイヌの火の神の名前が ape meru koyan mat と言い、火を・照らして・陸(こちら)に向かう・女性、というのがあるので、koyan と解くと「雷・と共にこちらに来る・姫」であろうか。娘(玉依日女)が雷神の子を産む、という程度の整合性はあるようだが・・・[訂正:2000/11/14] |
さて、「玉依比賣」という名前は記紀にも度々出てくるが一つは山幸が海神宮を訪れ娶った豊玉姫の姉妹が玉依姫である。玉依姫はウガヤフキアエズの叔母に相当するが、その妃となる。玉依比賣に姉妹がいたというのは上記の加茂説話(これは兄妹だが)、とチキサニ・アトニ姉妹と同様ではある。
もう一つはニニギの命の母の名前に「高皇産霊尊の御子万幡姫の御子玉依姫命」として出てくる。こちらでは玉依姫の兄弟姉妹が見えない。しかしながらニニギの母親の名称に多くの異説が伝わっていて「火之戸幡姫の女、千千姫」を見るとアイヌ説話のチキサニが発火の材料であること、「栲幡千千姫」(栲は白い)と見るとアトニの「白い木肌」を想起してしまう。
玉依姫なんて、ちょっとゲンを担げば誰にでもついてしまう名前さ、とも考えられるが、伝承の混乱により一見別人に見えるが根元は同じかもしれない、と思ってみている。