「あられふる鹿島」の語源

ORIG: 96/11/20
REV1: 97/07/11 format
REV2: 97/09/16 format, font
rev3: 99/04/25 Rev.
rev4: 2000/04/21 遠江に掛かるワケ

「霰降る」は「鹿島」に掛かる枕詞、などとされています。どんな解釈になっているのか通覧しておきしょう。

枕詞:「霰降り」の説明、岩波古典文学大系の頭注集
常陸風土記・香島郡(p65):霰の降る音のカシマシ or 霰の降る音のきしむ意でキシマ(杵島)に冠した称辞の転用であろう。
肥前風土記逸文(p515):アラレフルは杵島に冠する称辞。
万葉集1293:(遠江にかかっている。)普通カシマにかかる。ここでは、音がトホトホする意からトホツにかかるという。
万葉集1174:霰が降ってカシマシイ意でカシマにかかる
万葉集 385:(キシミが嶽にかかっている。)キシキシと音がする意からキシミにかかる。

「キシキシと音がする」なんてよりも、どうせなら、肥前風土記(p403)にあるように、杵島は昔「カシ嶋」と云った、を使って、カシマにかかる、とまとめれば良いのに、とも思います。

どうでしょう、なんか、もう素人がやったら語呂合わせ!といって一笑に付されそうなことばかりが書いてあるとは思いませんか?

これよりはマシだと思える案を出してみたいと思います。

関連アイヌ語単語・参照単語集
kawkaw as霰・降る
kawkaw as or霰降る処→香香背男?
sir山、島
hur
kur者・人・男

つまり、私が考えているのは「縄文語はアイヌ語に引き継がれているのではないか」、従って「縄文語の地名が残っていて、それがアイヌ語で理解出来ることがあるのではないか」ということです。

kawkaw as sir霰・降る・山/島カシマ?
kawkaw as hur霰・降る・丘.
kawkaw as kur霰・降る・者/人.
kawkaw as or un kur霰・降る・所に・居る・男カカセヲ?
辺りの縄文語地名・人名を和語に翻案するにあたって「霰降るカゥカゥアッシル→霰降る鹿島」「カゥカゥアス男→カカセヲ」になって来たのではないでしょうか。

つまり、カシマと云う地名は昔、kawkaw-as、に近い言葉であり、香香背男のいた所でもあろうし、霰が降る、の意味だった。だから、カシマ(漢字を宛てるなら鹿島とか加島など)と地名が定着するにあたり、その原義が枕詞として残った、とは考えられないだろうか、という提案です。

アラレフル遠江:(2000-04-21追記)
なぜ、アラレフルが「遠江」(トホトウミ)に掛かるのかが判った気がします。霰というのは寒冷前線による急激な上空気温の下降によるもので気候の急変によるものです。従って雷を伴うことが多い。神武紀でも長髄彦との決戦のときに「突然天が暗くなって雨氷(雹)が降って来た。そこに金色の鵄が飛んできて天皇の弓ハズに止まった。その鵄の光が輝いて稲妻のようであって、」とあります。さて、霰・雹の時の「雷鳴・稲妻」をアイヌ語で表現してみると tom tom humi (光り・光り・鳴る)と言えます。即ち、トムトムフミ→トホトウミ。だから、アラレフル遠江、になるんじゃないでしょうか。


付録:
日本書紀に、二神が高天原から葦原中国の平定に出かけるにあたり、「天に悪神あり、名を天津甕星、別名天香香背男と云う、これを討伐してから地上に下って葦原中国を平定しようと思う」ってなことを云います。

「天にも悪神がいるのか」と、理解し難かったのですが、「アイヌの世界観」 (山田孝子著、講談社)に、天の構成が述べられていて、一説では

 ・最高の天 ・雲間の高い天 ・星居の天 ・下の天 ・霧の天 、

となってます。これを参照すると、どうやら、二神が、より高い天から、「途中の天」(甕星のカカセヲが居るのだから星居の天か?)で悪神をやっつけて、より低い天(下の天か霧の天)に属する葦原中国に来た、と理解することが出来るのではないか、と思うようになりました。

日本書紀の天孫降臨の段でも、第2の一書では、天忍穂耳が降臨しようとしたところ、「途中の虚天(おおぞら)」でニニギのミコトが生まれたので、ニニギを降臨させることにした、との話があります。

高天原と葦原中国の間にもう一つ(或は一つ以上の)の世界、空間があったようです。

紀記の天空観には多層構造を思わせる得るものが、この二例しか見当たりませんが、それがアイヌの観念ではポピュラーなようです。


付録2:(2000/04/21 増補)

肥前風土記杵島郡の記事(岩波本P403)には「船のカシ(繋ぎ止める杭)の穴から冷水が自然に出て来た。・・・それで『カシ嶋郡』と名づけた。それが今(風土記を書いているとき)キシマというのは訛りである」とあります。

一方、出雲風土記(嶋根郡)(岩波本p129)に出てくる神社に「爾佐の加志」というのがあります。(出雲神社リスト#78)これの所在地に就いて同本頭注p129では「野波の野の氏神社に合祀、旧社地は野沖の加志島という」と書いています。出雲でも肥前でも「カシ」と言う島名と「ヰ、為、井、即ち、冷水」が面白い符合を見せています。

爾佐の加志能為:新リンク:2002/12


付録3:香取に関するメモ
  • 香取
    • 香り=hura 香る=tomihura→トリフラ→取・香?
    • 香取=hura取 ←船鳥?
    • 取香:地名年齢不明なれど成田空港のそばにある。鳥hura→鳥hune(船)?
    • 香西:地名年齢不明なれど香取神宮南西にある集落名。香東、香南、香北など見つからず。「カカセヲ」の「カセ」か???
    • アイヌに「カントリ・カムイ」最上天の・神、というのがある。これかぁ?

倭文神
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