「三雲」について |
orig: 2000/10/22
rev1: 2001/05/01 八穂・三穂
rev2: 2004/01/18 天八下尊・天三降尊追記
少しアイヌ語彙の復習をしておきますと:
san | 出る | san pe 出る・もの、出る・水 |
kur | 影(雲) | 人・神・者、の意味もある |
re | 三 | 名前、の意味もある |
rep | 三つ、沖 | 参照:隠岐の三つ子島 |
ya | 陸地 | 例:Pon ya un pe 小さい・陸に・居る・者(ユーカラ主人公の一) |
un | 〜に居る | 例:sar un kur 葦原・に居る・人 |
一方、スクナヒコの語義を考えるにあたり、「ナ」が二通りに考えられることにも気が付きました。即ち:
これらの点から、オホナムチを陸地に居る人、スクナヒコを沖に居る人、と対比して考えると「八雲」「三雲」の対比と整合しそうに思えてきました。
八雲 | 三雲 | コメント |
ya un | rep un | 陸/沖に・居る |
ya un kur | rep un kur | 陸/沖に・居る・人/雲 |
オホナムチ | スクナヒコ | スクナヒコが pon rep un kurと解せる。オホナムチはその相棒。 |
陸に居る人 | 沖に居る人 | この対比がオホナムチとスクナヒコの対比に相当するのではないか |
「オホナムチとスクナヒコは力を合わせ心を一つにして天下を経営した」(日本書紀)というのも陸人と海人の協同のこと、と理解してみる端緒になりそうである。
(あと、これが何を意味するか未明だが、八穂爾支豆支と三穂、という対比が出雲風土記国引き条にある。2001/05/01:また、『先代旧事本紀』には、「天八下尊」と「天三降尊」がある。2004/01/18)
ユーカラのポイヤウンペ(Pon ya un pe)は「幼少な{陸地に居る人}」という理解であり「{小さな陸地に}居る人」ではない。幼少な人物が英雄視されるのはヤマトタケルにも見られる。
しかし「{小さな陸地に}居る人」と解すれば、これは、記紀・風土記がしきりに「狭野命」とか「狭布の稚国なるかも」というように「小さい国、小さい陸地」を表現しており、「小・地・人」という語群(概念)の「小」を「地」に関する形容詞とするのか「人」に対する形容詞にするかの揺れのように窺える。