「とべ」を考える
ORIG: 2006/05/16
add1: 2006/05/28 追記
add2: 2006/07/01 追記

神武紀などに出てくる「名草戸畔」などに現れる「トベ」を考えてみた。まず、用例から
名称出典性別:備考
名草戸畔神武紀
丹敷戸畔神武紀
新城戸畔神武紀
荒河戸畔崇神紀。古事記では「木国造、荒河戸弁」
氷香戸邊崇神六十年紀
苅幡戸邊垂仁紀。記は、苅羽田刀弁。
綺戸邊カニハタトベ、垂仁紀。記は、弟苅羽田刀弁
又娶春日建國勝戸賣之女。名沙本之大闇見戸賣開化記
級長戸邊命 亦曰 級長津比古命記:志那都比古神
都辨志呂神社出雲國意宇郡-
伊{田比}志都幣命出雲国飯石郡飯石郷
伊古比都幣命爲志神社 奈良県北葛城郡新庄町林堂
八佐加支刀部一名伊己呂比命:倭姫世記?:(私注:p363)
天登目命『勘注系図』四世孫:天戸目命『先代旧事本紀』登(乙)戸(甲)が不審。
目(乙)。上では賣(甲)、不審
建登米命『勘注系図』五世孫:建斗米命・妙斗米命『先代旧事本紀』登(乙)戸(甲)が不審。
米(乙)上では賣(甲)、不審
志理都紀斗売応神天皇記:『先代旧事本紀』に尾綱根、尾綱真若刀俾(志理都紀斗売)、金田屋野姫
難斗米神功皇后39年?:倭人伝、一般には「難升米」。「米」は「メ乙」
八坂刀賣神諏訪大社下社秋宮 http://kamnavi.jp/en/sinano/suwaaki.htm

メモ:
  1. 「トベ」の「ベ」は「メ(女)」の転であろう、として、女性と考えていた。(「ト」が「戸」である、というのには疑問を持ちながらも対案はなかった。)「ベ」を「部」と認識しているかの如き用字が倭姫世記にある。
  2. しかし、「級長戸邊命 亦曰 級長津比古命」をこのまま受け取ると、ここでは男性となる。これは「級長戸邊命 & 級長津比古命」の書き間違いなのだ、とすると、女性が先に男性が後に記載される特異な例、ということになり、かなりな強弁になろう。
  3. 逆に「又娶春日建國勝戸賣之女。名沙本之大闇見戸賣」については、前半の「戸賣」が間違って挿入されたのだ、という考えもあるが、そう考えたとしても後半は、「女」であることが明確に書かれている。
  4. 『先代旧事本紀』や『勘注系図』の「登米」などの「トメ」を「戸畔」などと同語とするには上記のように不審な点がある。これらの「トメ」が「戸畔」と同語である、とすると、これら資料の作られた時代が平安中後期以降(甲乙弁別が無くなった)に下げられることになる。
  5. 「トベ」は「ツベ」でも良いか、と拡張してみると「ツベ」は現代諸方言、沖縄古語で「尻」の意味がある。「尾綱根」も「尻綱根」が本文の用字のようであり、「尻」とした方が「尻綱根」と「シリ都紀斗売」の兄妹関係がより明確になる。(「尻」も「尾」も同じようなものだが。)『勘注系図』では「志理都彦命。弟 尻綱根(尾張連等祖志里都名根)」とある。
  6. 「ツベ」へ拡張してみることについての疑問:「戸、刀」は「ツ」と共用されない。(「都辨」「都幣」が「戸畔」と同語である、と決まれば「ツベ」への拡張は正しいことだろうが、現状では同語反復になる。)
  7. 非和語からの借用(音写)の可能性も視野に入れておく(どういうことか、というと:一例:thinkを「シンク」とするか「ティンク」とするか、というような揺れ。・・・最近の教科書には I tink ...というのがあったそうだが(笑))
  8. アイヌ語 tope を考えてみた例
  9. 「難斗米」であったとしても、はて「ナ・トベ」と分割するのが正しいのか「ナト・ベ」なのか。後者の可能性で気になるのは『韓国古地名の謎』光岡雅彦著(学生社)p193に「納斗(ナツ)・納古児(ヌクル)」が「太陽・聖流・豊壌」の意味である、という記事があること。都合良いことだけでつないで行くと「ナト・ベ」は「ナツ・メ」でも良く、その義は「太陽の・女」である。「日女」という概念とのつながり。大年神系図の「夏賣神」など「夏」字を使う神名。
  10. 「刀」に「トシ」と振り仮名をつけるのが『原初の最高神と大和朝廷の原始』海部穀定著(桜楓社)所収の『倭姫世記』(P370)。『時代別国語大辞典上代編』には「鋭利」の意味の形容詞としての「トシ」はあるが、名詞としては認知されていない。保留しながらも「刀」字のみから「トシ」(更に トジに転)という語が派生したもの、という可能性も検討を要する
  11. 神代記に「意富斗能地神、妹大斗乃弁神」がある。「能」と「乃」が所属を表す助詞(「ナニナニの」の「の」)と考えると、斗地(トヂ)、斗弁(トベ)が抽出出来る。つまり、トヂが男性、トベが女性、というのがここから導き出せそうだ。[追記:2006/05/28]
  12. 「意富斗能地神、妹大斗乃弁神」:日本書紀(岩波)の補注を読んで行くと、この「ト」は「狭い水流(瀬戸)、狭い通行点・通過点」とし、更に陰部の「ト(みとのまぐはひ、など)」を考察している。結果、大きい「ト」の男性、大きい「ト」の女性、としている。(判然とはしないが、この神名の「ト」を陰部と解しているようだ)

    待てよ、、、クナト、フナトを私は「国の・戸(門)」、つまり国境のようなもの、と考えているが、そのこととつながってこないか。

    「意富斗能地神、妹大斗乃弁神」は「猿田彦とアメノウズメ」に対応しそうに見えてきた。猿田彦は「岐(ふなと、ちまた)の神」と考えられている。今風に云えば国境警備隊、税関、入出国管理事務所に相当するのではないか。[追記:2006/05/28]

  13. 伊波普猷著『古琉球』(外間守善校訂)岩波文庫(青N102-1)の「P音考」の中に、琉球語には「何々スル人(者)」のような名詞を作る独特の方法がある(英語の-erのように)、として、それが-aであり、それは-paに遡り、変形は(奄美)大島の-beである、と述べている。(アイヌ語のpeや朝鮮語のpaをヒントに考えたようだ。)

    大島における be の用法は「人を卑しめていう言葉であって、者または奴の意があるのとのこである。(これは田舎ッペーなどのペーと同じ言葉である。)」としている。

    さて、和語の古語には「とひと」という語がある。『時代別国語大辞典上代編』では、いやしい人、いやしいこと、を意味するとあり、「外・人」が起源ではなかろうか、としている。

    「と・ひと」という語構成は「と・be」という構成を可能ならしめよう。名草トベ達は神武勢にとっては「外・人」「外・っぺ」「とべ」である、というのは如何だろう。 [2006/07/01:追記]


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