一般談話室
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タイトル Re: どうぞお健やかに
投稿日: 2016/12/27(Tue) 09:15
投稿者大三元

より媛さま

良いお年をお迎え下さい。

ところで、お読み頂いているかも知れませんが『初期天皇后妃の謎』にて:
3.4ヨリとスセリ、兄弟姉妹を表す
と論じております。

古代史には「依」がつく姉妹の名前の例が散見される。海神の娘、「豊玉姫と玉依媛」、事代主の娘の「五十鈴媛(神武后)と五十鈴依媛(綏靖后)」」が顕著な例だ。また、綏靖后に関する一書の「糸織媛(糸井依媛?)」と安寧后の「糸井姫」もこれに列するものか(親は共にオホマ)、と考えている。
もう少し調べてみよう。『記紀』によるニニギの命とコノハナサクヤ姫(神武天皇は曾孫にあたる)の子に関しての諸説を並べてみると下表のようになる。
図表 314 「スセリ」と「ヨリ」
本文第2の一書第3の一書第5の一書第6の一書(第8*)第7の一書古事記
長男火闌命火酢芹命火明命火明命火酢芹命火明命火照命
二男彦火火出見尊火明命火進命又曰、火酢芹命火進命火折尊、別名 彦火火出見尊火夜織命火須勢理命
三男火明命彦火火出見尊 亦号 火折尊火折彦火火出見尊火折尊彦火火出見尊火遠理命亦名天津日高日子穂穂手見命
四男彦火火出見尊
第1の一書には子についての記載がない。*第8の一書は第6の一書にある別名がないという違いだけで同じである。
ここで、「火折」「火夜織」を考えてみると前者は「ホヲリ」、後者は「ホヨリ」であろうが、いずれも長男には現れない名前である。(ここで「火夜織」を読むにあたって、とりあえず「ホヨオリ」であろうが、古くは二重母音を嫌っていたので「ホヨリ」と読むのであろう。上で「糸織媛」では「イトオリ」と二重母音が入るので「イトリ」と読んでいたものであろうが、原型は「糸井依」(いとゐより)ではなかったか、と考えていることに関連している。)
対照的に「酢芹(すせり)」、「闌(すそり)」は8例中4例は長男に見られる。少なくとも「ほをり・ほより」よりも年長であることは、全例に通じて言える。すなわち「スセリとヨリ」は兄弟(姉妹)の長幼を区別しているようだ。

ちなみにスサノヲの娘に「スセリ姫」がある。長女とは断定できないので上論の証明には使えない。伝承の経路というか系統が違うようだがスサノヲの娘には他に「大屋津姫」「抓津姫」姉妹が伝えられており、スセリ姫との長幼の関係が不明なのだ。もし、上論が正しければ、スセリ姫は長女だったのではないかと推定が出来る、ということになる。

スセリ、スソリという語彙は既に意味不明だし、ヨリについては憑依するヨリシロ(依代)という方向で解釈されているが、どうも腹にしっくり来ない。スセリとヨリを対比させて考えることにより、これを長幼の対比とみることが出来まいか、という提案である。

なお、この提案が矛盾を起こしそうなことがある。それは『古事記』が神武后を「ほと富登たたら多多良いす伊須すき須岐比賣命、亦名、ひめた比賣多たらい多良伊すけ須気より余理比賣」としていることである。「ホト」を嫌って「ヒメ」と言い換えたらしい頭部はともかくとして「イススキ」の亦名部分が「イスケヨリ」ということになる。同一人物の名前に片や「ヨリ」が無く、片や「ヨリ」がある、というのでは、この語が長幼を示しているとは考えがたいことになる。ここは後考を待つことにするが、ひとつ指摘しておくことがある。それは「伊須須岐」と「伊須気」が対応していると考えるとき、「岐」は「キの甲類」であるのに「気」は「キの乙類」(また「ケの乙類」)であり、いわゆる仮名違いになっている、ということである。今は、したがって、亦名は純正な伝承ではない(例えば、甲乙の弁別が失われたり「ホト」を嫌った後代の加筆)のではないか、と考えて上記の矛盾がない、としておく。

また、更に発展させて崇神・垂仁天皇期に多く見られる「イリ」も、ここの「ヨリ」との関連があるかもしれない。「イリ」については、アイヌ語 ir が血のつながっていることを意味し、ir-wak で兄弟姉妹、従兄弟姉妹、親戚を表すことが参照される。そして、ここの wak は u-ak と分析、理解され、互いに兄弟(である)、という意味合いになる。この語 wak から「別(わけ)」も説明できるかもしれない。こういう視点で研究を続けてみようと思っている。


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