古代の朝鮮半島の三国の一つカラ(加羅)とは、どんな意味なのでしょうか。
加羅と伽耶は、同じ地方を指しているとされます。
では、なぜ呼称が異なるのでしようか。
このことについて、確かな説はあまり説明されていないように見えます。
そういうわけですので、別の角度から、まず、発音が同じ日本語のカラス(烏)を鍵として、考えを進めてみたいと思います。
カラス(烏)のスは、鳥を意味する言葉だとする説が有力です。
そうしますと、カラスのカラとはどのような意味の言葉なのとの問いが出てきますね。
烏はカアカアと鳴くことから、その擬音がカラだとする説がみられます。
しかし、カラスは黒い色をしていますので、黒い色を表すのがカラではないかと推測する意見もあるようです。
ただ、日本語には、カラの発音で黒を意味する言葉は見られません。
そこで、この意見に従って、外国語にカラの発音と黒の語義、あるいはカラに類似する発音と黒の語義の言葉を探してみますと、次の語が見つかります。
黒
モンゴル語 khar(ハル)=黒
カザフ語 qara(カラ)=黒
キルギス語 kara(カラ)=黒
パンジャブ語 kala(カーラ)=黒
ヒンディー語 kaala(カーラ)=黒
ネパール語 kalo(カーロ)=黒
サンスクリット krushnah(クルシュナ)=黒
これらを見ますと、カラの発音で黒を語義とする言葉は、インドから中央アジア、モンゴルに広がって見られることが分かります。
サンスクリットのkrushnah(クルシュナ)が黒を表していることからしますと、パンジャブ語のkala(カーラ=黒)やヒンディー語のkaala(カーラ=黒)、ネパール語のkalo(カーロ=黒)などはサンスクリットのkrushnah(クルシュナ=黒)の語頭のkru(クル)が訛った語だとすることができるでしょう。
このことからしまして、カザフ語のqara(カラ=黒)やキルギス語のkara(カラ=黒)、モンゴル語のkhar(ハル=黒)などはパンジャブ語のkala(カーラ=黒)の言葉が交易に随伴して北へ広がったものと考えることができるでしょう。
そうしますと、日本語のカラス(烏)のカラは黒を表しているとする意見は、確かに妥当なものとすることができます。
カラス(烏)とは「黒い鳥」の語義だと言うことになります。
このように、インドのパンジャブ語起源のカラ(黒)の言葉が日本にまでもたらされていると考えられることからしまして、その途中の朝鮮半島にもこのカラ(黒)の言葉はもたらされていたはずだとみなすことは妥当だと思われます。
しかしながら、カラの発音で黒を語義とする言葉は、韓国語には見られません。
そこで、韓国語の黒を表す言葉を見てみることにします。
黒
韓国語 geom-eunsaeg(カムンセク)=ブラック、黒い色
この語は、geom(カム=剣)+eun(エン=銀)+saeg(セク=色)の合成語のようですので、「剣の銀色」が「ブラック、黒い色」を表していることになります。
なぜ、剣の銀色が「黒色」の意味になるのかと言いますと、鉄を溶かしてこれを剣の鋳型に流して剣を造りますと、鋳型から取り出したときのその剣の色は銀色をしていまして、その銀色は「鈍い黒さ」の色であることにちなんで「黒色」の語義がついたと考えることができます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%89%84#:~:text=%E9%89%84%EF%BC%88%E3%81%A6%E3%81%A4%E3%80%81%E6%97%A7%E5%AD%97%E4%BD%93,%E5%A4%96%E6%A0%B8%E3%83%BB%E5%86%85%E6%A0%B8%E3%81%AB%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82そして、剣は鉄から造りますので、鉄製品は剣に限らず造りたては「銀色(黒色)」と言うことになります。
ただ、しかし、この剣銀色(黒色)は、カラス(烏)のような漆黒の黒色ではありません。
パンジャブ語由来のカラ(黒)ではないということです。
では、鉄製品で漆黒の黒色が得られることがあるでしょうか。
それは、そうした出来たての鉄製品をさらに900度程度で熱しますと、表面に黒色の錆が生じるそうです。
https://oigen.jp/enjoy/worldofcraft/22570これは、鉄製品は放置しますと空気に触れて酸化し赤錆が生じますので、この赤錆が生じるのを防ぐための措置です。
そのため、昔は、鉄瓶や包丁、鍬など鉄製品は真っ黒い色をしているのが普通だったわけです。
今は、錆びにくいステンレス鋼が用いられる場合が多いので、黒い包丁などは見かけないですね。
さて、ここで、古代朝鮮半島での鉄生産を見てみましょう。
古代朝鮮半島では鉄鉱石を溶かして鉄を作る産鉄が行われていて、倭人も含めて周辺の種族がこの鉄器、鉄素材を入手していました。
中国の史書にこのことが書かれています。
鉄器や鉄素材が造られていたのは、今の慶尚南道陜川郡冶炉やその近辺だとみられています。
この地方は、加羅(カラ)と呼ばれたそうです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BC%BD%E8%80%B6そうしますと、この加羅では、周辺の需要を満たす多数の鉄製品が継続して造られていたことになります。
そこで、この加羅(カラ)の言葉とパンジャブ語由来のカラ(黒)を重ねてみますと、非常に面白い推測ができるのです。
加羅(カラ)の鉄器生産地やその集積地には、多量の鉄製品や鉄素材が置かれていたわけですから、赤錆防止のための措置が施された真っ黒な鉄製品がいたるところに積み上げられていた情景が浮かびます。
そして、「真っ黒」を意味するのが、パンジャブ語由来の「カラ」なのです。
つまり、真っ黒な鉄製品や鉄素材がいたるところに積み上げられた街
の名が加羅(カラ)だということは、その加羅(カラ)とは「真っ黒な街」を意味している可能性があるというわけです。
そのカラ(黒)に加羅の字を当てたのは新羅と同じ用法で、羅の字は城壁で囲った街を意味したということですね。
加の字は、日本の万葉仮名と同じようにカの音を表したものでしょう。
このように考えますと、朝鮮半島にもパンジャブ語由来のカラ(黒)の言葉はもたらされていた可能性が高くなります。
そして、日本語のカラス(黒い鳥)のカラも、その朝鮮半島の加羅(カラ=黒)と同系の語彙であり、インドから中央アジア、モンゴル、朝鮮半島、日本へとつながる交易路上にこの「黒」を表す「カラ」の語彙は確かに広がっていたと見なすことができることになるのです。