にある縄文語(候補) |
(郡名を)意宇(おう)と名づけた理由は、国引きをした八束水臣津野命が「八雲立つ出雲の国は狭布の稚国であるなぁ。初国は小さく作られたから、作り縫おう」と言って国引きを始める。四つの国を引いてきて、やれやれ疲れた「おゑ」と言ったから(「意宇」と呼ぶことになった)。 四つの国を引いて来るのに「童女の胸鋤取って、大魚の鰓を衝き別けて、はたすすき穂を振り分けて、三身の綱をうちかけて、霜黒葛(しもつづら)クルヤクルヤに、河船のモソロモソロに、国来国来(くにこくにこ)と引き縫える国は・・・」という節を4回繰り返して4回の国引きをしてくる。 |
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関連アイヌ語と解説備考など | |
「童女の胸」 | 若い pewre 女 mat (の)胸 penramu(hu) のように p, 半母音/半音節的な w/n に続いた r、そして m音で語調が良い。ローマ字を発音してみて頂きたい。 和訳された上記では「稚国」と「童女」となっているが、あるいはオリジナルでは「若い」を意味する語が「国」と「女」の両方に前置されていたかも知れない。そうすると語調が良くなり記憶、連想、を助け口頭での伝承に都合が良い。 |
「鋤取って、大魚の鰓」 | 鋤を意味する語に kukka があり、きだ(鰓、えら)の kuruki と共に下段に引き続く k, r 音の連発の始まりである。 |
「はたすすき穂を振り分けて」 | すすき sup 穂 pus 振る suye 別ける usaraya と語調が面白い。 和文解釈の、すすきの「穂振り」が屠る(ほふる)につながって、「すすきの穂」が「振る」の枕詞だ、というのも面白いが、sup pus suye, usaraya の語調も中々ソノラスである。 |
「三身の綱」 | 三本の糸を撚って拵えた綱で re ka eka tus (3・糸・撚る・綱)あたりの語群からなる。 「3」と「糸」は播磨風土記にあるオホナムチと天日矛の争い、や三輪伝説にも共通するキーワードだ。 |
「うちかける」 | 「投げつける」ほどの意味と理解すると sir-ekatta が対応する。 上記の「三身」の re ka との語呂合わせにも注目する。 播磨風土記のオホナムチと天日矛の説話にも三條の黒葛を投げる、というモチーフがある。 |
「霜黒葛(しもつづら)クルヤクルヤ」 | 霜=kuruppe 黒=kunne (←kur+ne) 葛=蔓として=punkar そして kuruya kuruya と、この一節は "kur" とか "kar" から成り立っている。 |
「河船のモソロモソロ」 | 河船とは「進みの遅い意でかかる枕詞」で「モソロモソロ」は「そろりそろり」(岩波古典体系風土記P100頭注15)とある。そうかも知れない。 モソロモソロに moshir moshir (国々、島々)を感じてしまうがどうだろう。「モソロモソロに国々来々(国来い、国来い)」という繋がりであるから、moshir と 国の連想が面白いのではないだろうか。 |
「引き縫える国は」 | 和訳されて消えてしまったが、引くは nini、 縫うは ninu だから、国を引いて来て縫いあわせる、というモチーフは、縄文語オリジナルなら、同一の音 nin_ から出ているように見受けられる。 |
以上、この国引き神話は見事な和訳になっているが、アイヌ語を援用して縄文語で復元してみると、和訳バージョン以上に語調の良い、ソノラスな、文が見えて来るように思われる。 |
そればかりか、3・糸・玉・(霜)黒葛・投げる、あたりのモチーフが、出雲国引き、オホナムチ対天日矛、三輪伝説、ミカタという地名や人名(櫛御方)などを統一的に理解することを勧めているように見えてくる。 |
童女 | pewre mat |
胸 | penram(hu) |
胸板 | ram kotor |
鋤 | kukka, tonka |
きだ(鰓) | kuruki:(鱗だと ram-ram) |
(衝き)別ける | (okke) cimi/usaraya |
すすき | sup |
穂 | pus |
振る | suye |
三身(三つ撚り) | re ka eka (3・糸・撚る)、noye(綯う) |
綱 | tus(i) |
霜 | kuruppe |
黒 | kurne* →kunne |
葛 | 蔓、として、punkar |
引く | nini |
縫う | ninu |
nini | 引きずる:複数は ninpa (田村辞書) |
ninpa | 引く、引きずる:綱をつけてたくさんの物を引っ張る(萱野辞書) |
ninu | 縫う |
nin-ninu | 縫う、針を使って縫う(多分、上の ninu の繰り返し) |