「つつ・つち・星」考

orig: 2011/09/29
rev1: 2011/09/30 星名検討追加 rev2: 2011/10/09 経津=瓮津=甕津>
rev3: 2011/10/26 香香背男=アヂスキ追記 rev4: 2012/01/28 細部補修


既に「大山祇神」のタイトルで「つち考」を掲げている。ここでは「つち、つつ」が「星」を意味していまいか、を検討する。
上代日本語で「星」のことを「ほし」というのは今と同じであるが他に「つづ」という語があったことも推定されている。その推定の根拠は「ゆふつづ」という語があり「夕星」、すなわち宵の明星のことであると定まっている。ここから「星」は「つづ」だろう、と考えるものだ。しかし単独に「つづ=星」の実例がない、とされている。

そこで「つづ」という音が「つつ」「つち」あたりにまで揺れることを許してみる。

こう考えてみる発端は「天の甕星(みかぼし)」「建甕槌(みかづち)」を対比してみたことによる。すなわち「つつ、つち」が共に「星」を意味するならば「甕星」も「甕槌」も同じ意味になる。

しかしこの二名は別神のものでしかも敵味方の間柄なのだ。敵味方で同名では困るではないか。そこで思い起こすのが、クマソタケルがヤマトヲグナに退治された時に「タケル」名を献呈した、それでヤマトヲグナ→ヤマトタケルになった、という話だ。この話を「甕槌が甕星を退治した(勝ったのは建葉槌だ、という別伝もある)」との伝に援用するならば、ある幼名を持った神が「甕星」を退治したことにより「(建甕星)→建甕槌」になった、と読み解くことができる。その幼名が「建葉槌」であったのだろうか。

上記の次第から「つつ、つち」あたりが「星」を意味すると措定してみると幾つか面白い景色が見えてくる。

1.甕槌、甕星=みかぼし=三箇星? オリオンの三つ星で良いだろう。

2.住吉三神(上筒男、中筒男、底筒男):如何にも水平線から順次上がってくる三つ星

(岩波古事記P71注15に「筒は星(つつ)」としている。ここでの私論は「つち」にまで広げて考えていることが新しい。)

3.ツチグモ:試みに「星雲」と捉えてみる。オリオン大星雲(M42)を魔物、賊と捉えただろうか、との空想。

4.ベテルギウス、γ、リゲル、κ が形作る四角形を「鋤」と見とれるか?「味鋤(あぢすき)」を読みとれば三つ星(甕津日女)との夫婦を見ることが出来そうだ。(「味」も「うまし」であったか。)実に三つ星(の一つ)を「からすき(唐鋤)」と呼ぶ;しかし上代からこの星のことをそう言っていたかは判らない。

5.手名椎/足名椎:オリオン座ベテルギウスの語源がアラビア語の「手」を含み、リゲルが「足」に関わる。手名椎=手の星、足名椎=足の星 と解いた時の対照が面白い。 (星名の語源がアラビア語であるものがある(多い?)文献としては新しいもの(10世紀末)のようだが古来からの伝承を書きものにしたのが新しいだけ、とも云える。

6.開闢神の一に「国狭槌(サヅチ)尊」がある。この神の別称に「国狭立(サダチ)尊」がある。従ってツチ=タチと置き換え可能か、としてみる。「国常立(トコタチ)尊」の別称「国常槌(トコツチ)尊」があり得るか、と言う想定である。「トコツチ」だと「常星」の意味になり「いつも場所の変わらない星」で北極星を意味できそうだ。

7.「ツキ(月)」と「ツチ(星)」の言語的関係も興味のあるところ。
  参照:サキ:サチ 幸

8.「経津主神(ふつぬしのかみ)」「布都怒志命」:「経津、布都(ふつ)」が「つつ」の揺れである可能性は? (主(ぬし)は「〜の大人(うし)」が原点か、と推察していたがアイヌ語 nociw=星 も捨てきれないか。「天御中主」(あめの みなかの ぬし)の「主」もさることながら「みなか」は「みか」とは無関係か。)経津主神は香取神とも云われ香取神社に祀られる。アイヌ語:カントリモシリ kantorimosir【名】[kanto-ri-mosir 天・高い・国] 空のさらに上の世界(天)。 {田村・沙流方言辞典}


「経津」は普通「ふつ」と読まれるが、「へつ」と読むことも可能ではある。「へつ」と読めば「へつ=瓮つ」があり得て、「瓮=甕」であるから「へつ(経津=瓮津)=甕津」となる。

古事記に「建御雷神」の代行として「横刀」が下されるが、この横刀の名が「佐士布都神、甕布都神、布都御魂」であるという。
 「甕槌」と「布都」が異名同人(神)かもしれない、と思っていたが「甕布都」という名前が存在するので心証が一段と強くなる。

「みか」関連:
A.「みか」を「三個」と解したいが一抹の不安がある。「三つ」を云うのに「みつ」は良いのだが「みか(みかつ)」があり得るか。「やつかみみ 考」で示したように「八束水(やつかみづ)、八箇耳(やつかみみ)、八上(やつかみ)」と括って見た語感からは「みか=三個」もありえそうだ。大体「箇」は「か」と読まれるのが通例である;しかし数値に「箇」が続く場合は「つ」と読まれるのが通例だ(例:五百箇、イホツ)。「みか」が「三個」の意味になる確証は未発見である。

[2016/05/24追記]
甕星(みかぼし)は「三日星」かなぁ、とも考えてます。三日月の「三日」です。
・金星は日面通過(日面経過や太陽面通過とも云う)をする、即ち、太陽を邪魔する悪者。
参考サイト
・金星は満ち欠けして三日月状に見えることもある(昔の人は肉眼でも見えた?)
 参考サイト

B.『出雲国風土記』楯縫郡条に出てくる「天御梶日女命(阿遅須枳高日子命の妃)」は「天甕津日女命」と同語であろう。


甕星は星の香香背男(かかせを)とも呼ばれる。 「オリオン座の和名 その2」によると、三つ星の呼称方言に下記がある。
★かせ星(かせぼし)
★かせさん(かせさん)
★かせいさん(かせいさん)
★かぜ星(かぜぼし)
四国の石鎚山で生まれた名前で,愛媛・高知・香川などの四国各県や広島で知られる。 “かせ”は,紡いだ糸を掛けて巻く道具。(“かせ”は漢字で木へんに上・下と書くが,第一水準・第二水準に含まれない漢字なので,ここではひらがなにした。)
南伊予のある地方では,子どもが三人並ぶとき「かせ星さんのように並べ」と言ったといい,これより三つ星のみを指して言う名前と断定された。
小豆島では“かせさん”,豊島では“かせいさん”,小豆島・志々島・上蒲島では“かぜぼし”と訛る。
また、三つ星・小三つ星・η星をまとめての呼称方言に次記がある:
「オリオン座の和名 その1」
★酒桝星(さかますぼし)
★酒屋の桝(さかやのます)
★桝星(ますぼし)
★合桝(ごうます)
★二合五勺(こながら)
★油桝(あぶらます)
ほぼ全国的に呼ばれていた名前。これに派生する方言が各地に見られる。
“酒屋の桝”は熊本市。筆者(土山由紀子)が幼い頃,祖母(1903年生まれ)から聞いた名前。
“桝星”は,岡山・淡路・和歌山・群馬で見られる名前。青森・秋田などでは同じ名前を北斗七星に使っていた。また熊本県南関地方でも北斗七星のことを“サカヤンマッサン”と呼んでいたが,同じ熊本県北部で,ペガススの四辺形を“大きな酒桝”と呼んでいるところもあった。
“合桝”“二合五勺”は両方とも福岡県での名前。
“油桝”は佐賀県で北斗七星の名前と言われるがオリオンという説もあり,“油合”は,鹿児島県の喜界島。
「桝」も「甕(かめ、みか)」も液体を入れる容器で同類だ、とすれば、「甕星」別名「香香背男」ということはオリオン座の幾つかの星が「桝≒甕」別名「かせ」とあることに通じる。すなわち「天之甕星」とはオリオン座(の幾つかどれかの星)のことであろう。
上に書いた:『出雲国風土記』楯縫郡条に出てくる「天御梶日女命(阿遅須枳高日子命の妃)」は「天甕津日女命」と同語であろう。「みかつ」が「みかつち」の縮約であるか。

これに関して:【かじぼし:舵星】 おおぐま座,北斗七星の和名 という記事がある。(出典)「舵、梶、楫」は今は「かじ」であるが古語では「かぢ」であり「御梶」姫の名前に通じている。これに沿ったような伝承もあったであろうか。

都々古別神社(福島県東白川郡棚倉町)の祭神が阿遅須枳高日子命である、というのも「都々・つつ」が星を意味していること、アヂスキが甕星であることを考えれば理解が行き届く。(なお、延喜式神名帳では「都都古和気神社」と書かれている)


上記したように甕星は星の香香背男(かかせを)とも呼ばれる。
「香香背男(かかせを)」の意味は「輝く兄・男」とされる(岩波本頭注P140)。
意味はそれで良いと思うが留意しておきたいのは
・アヂスキタカヒコネの「妹 下照媛」が兄のことを「丘谷に照り輝く者はアヂスキタカヒコネ神なり」と歌った、ということ:つまり、下照媛の兄・男が香香背男である、と推定できること。
・更にその歌「天なるや弟織女(おとたなばた)の頸(うな)がせる 玉の御統(みすまる)の 穴玉はや み谷 二渡らす アヂスキタカヒコネ」とも述べて天の川に言及していて天の川がアヂスキの周囲環境であることを示しているようだ、ということだ。

アヂスキ≒天稚彦、という混乱と上記を考え合わせると次のような構図が浮かび上がる。
ここで、「みかつ」姫は「みか星」の妹であり、「みかつち」の妻になったのであろうとコトバの上から推理している。

兄: アヂスキ≒天稚彦=香香背男=甕星←(敵対)→甕槌=甕布都
妹: 下照媛  下照媛      妹:甕津ヒメ  妻:甕津ヒメ {推理}
   (妻)  (妹)      ●妹が兄に反して敵に付く
 負け組の妹が勝ち組の妻になる、という神話のモチーフ[2011/10/26]


「つつ」「つち」のつく語(人名)を集める。{2011/11/08:表形式、編集]
建甕槌(武甕槌神)かぐ「つち」の血から生まれる
建葉槌命、武葉槌命、天羽槌雄神試論:武甕槌神の幼名?
手名椎/足名椎(出雲系譜:素戔嗚尊=櫛名田比賣←手名椎/足名椎←大山津見) 手の星・足の星:オリオン座
国狭尊(同神別称 国狭尊:∴ツチ=タチ?)天常は天常「つち:星」>(北極星)か?
天之都度閇知泥神出雲系譜3.深淵之水夜禮花神=天之都度閇知泥神{都度=ツト?}{閇知:アイヌ語「川」}→天の星川?「筒川」という地名が丹後に古代からある(浦島伝説)。
野槌、野椎 
軻遇突智輝く・星
表筒男命、中筒男命、底筒男命 
磐筒男(女)命「磐」(いは)は「表・上」(うは)のことのようだ
磐土命、底土命
雷(イカツチ) 
手名椎、足名椎(テナヅチ、アシナヅチ)手の星・足の星:
オリオン座
α星ベテルギウス(アラビア語、諸説ある内の一つ):“支配する人の腕”。
β星リゲル(Rigel):“巨人の左足”という意味のアラビア語
手摩乳、脚摩乳(テナヅチ、アシナヅチ)
塩土老翁、塩筒老翁(シホツチ)さそり座:α星・τ星・σ星を合わせて呼ぶ和名:塩売り星(しおうりぼし)、塩汲み星(しおくみぼし)。α星アンタレスは赤星(あかぼし)。先代旧事本紀に「天津赤星は 為奈部(ゐなべ)等の祖」とある。船(造船・操船運輸)に関わる一族である。
「みか」関連:
天甕星(みかぼし)布都(葉槌?)に敗れた時に「甕槌」名を贈る(推理)
天甕津(みかつ)日女命、天御梶(みかぢ)日女命甕星の妹、兄に逆らって甕槌の妻となる(推理)
甕速日神(みかはやひのかみ)かぐ「つち」の血から生まれる
速甕多気佐波夜遅奴美神(9.速甕多気佐波夜遅奴美神=前玉比賣←天之甕主神)
「櫛甕前」(天之穂日を0代として4代目)
「櫛甕鳥海」(天之穂日を0代として6代目。5代目が「櫛月」)

”ツ”と”ト”考
「大山祇神」「つち考」
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