魏志倭人伝の固有名詞の漢字-3 |
orig : 97/09/21
rev1: 2005/10/16 言い回し変更
こうやって、リストを眺めていると幾つか面白いことに気が付きます。随筆風になりそうですが、あしからず。なお「泄謨觚」と「柄渠觚」に就いては既に上げて有りますのでそちらを御参照下さい。 今回は「彌馬獲支」に就いて考えてみたいと思います。邪馬台国の官職名の一つです。これは、「ミマワキ」と読まれ、「御馬(ミマ)」を司る「ワケ」(尊称の一つ)と理解している研究者も居られるようです。
「獲支」が「別(ワケ)」のことであるかどうか。 では、後世、○○別、などと表記される「ワケ」の「ケ」はどんな音なのでしょう。それは古事記の国生みの段で、淡道穂之狭別島、の処に「別を『和気』と読め」と原文の注記があります。それで、「気」の音を調べてみますと、「乙類のキ」と「乙類のケ」に使われていることが判ります。 つまり、「支」と「別(ワケ)のケ」は、少なくとも奈良朝時代の日本語に於いては、違う音です。 「違う音」と書きましたのは、上記だけからただちに「彌馬獲支」を「御馬別」などと理解することは誤りだ、と言い切る自信もないからです。何故かと言うと、魏志倭人伝の伝える時代(3世紀)と、八母音が行われていたと考えられる奈良朝(8世紀)では500年も離れているし、また、邪馬台国が九州だったとしたら、地理的にも方言の差を考えねばならないかも知れないからです。 いずれにしても、現状では確定できないことを認識すべきで、安易に「彌馬獲支」=「御馬別」と断定して欲しくないなぁ、と思ってます。 一方、「支」の中国における上古音・中古音が、それぞれ、kieg、 t∫ie、と言うのも何か想像を掻き立てられます。即ち、確かに推古朝の時代から「支」が使われた語例を調べて、この字を「キ(甲)」と理解するのが一番もっともらしい、と言うことなのでしょう。上古音を使ったのなら、無理なく納得できます。もし中古音が行われていたのに、t∫ieと発音される「支」を「キ」に使ったのだとすると、推古朝の日本語の「キ」は「チ」に近かったのだろうか、なんて想像が出来そうです。
通して、彌馬獲支、は上古音なら、 mier-mag-ɦuak-kieg、中古音なら、mie-ma-ɦuyek-t∫Ie。さて、どんな日本語を写したものでしょうか。 「獲支」の部分は「ワチ」ではないか、と考えています。「ワチとの関係」へ |