語形と語義 |
下表には板橋論文に抽出された高句麗語から日本語と同源とされるものを抜き出した。各語に対して自分なりの検討をした。基本的な考え方は
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番号 | KG漢字 | KG音 | KG意味 | OJ音 | OJ意味 | 検討・討議(discussion) | 判定 |
1 | 別 | biar | 重 | Fe | 重 | 七重縣=難隠別が根拠だろうが、七=難隠、重=別、と区切る根拠が薄弱である。各論参照。別が村落を表す村用語の可能性もあり、七=難、隠=重、別=縣、という対応関係も可能であり、これの否定が求められる。別と重が対応する可能性のあるのはこれ一例である。第2子音が和語では脱落している〜ルールに合わない | 否定的留保 |
4 | 次若 | cinia | 頭 | tuno | 角 | 80a [92 牛首州 (首一作頭。一云首次若。一云烏根乃)] 一例のみ。また140満卿(一作郷)縣 本高句麗 満若縣 では若の音はケイに近そう | 留保 |
6 | 盒馬 | γapma | 大山 | yama | 山 | 和語tawa/dawa(峠)も要検討 | 賛同 |
7 | 仇 | gu | 童,童子 | ko1 | 子ども | この根拠は巻37の[29童子忽縣(一云仇斯波衣)]であろう。板橋B10では仇ku=松、ともある。[91夫斯波衣縣(一云仇史紛)]から来たものだろう。しからば仇史≒仇斯=松であろう。童、童子との対応可能性は一例。但し、「144 童山縣 *僧山縣 [141僧山縣(一云所勿達)]がある。これを見るなら「童=僧=所勿」となろうか | 留保 |
8 | 伊 | i- | 入 | i-r | 入る | 高句麗語に無い音の追加をしている。[116水入縣(一云買伊縣)]が根拠であろうが、百済の「P130 伯醗縣 ●水川縣 [水川縣(一云水入伊)]」と見るに疑念が残る | 不採 |
10 | 根 | kan | 首〜頭 | kauFe<*kami-Fe?, kasira,kabu, kami,kaFo | 頭、頭髪、顔 | 第2子音不一致。閉音節に母音付加しても相当和語不明。語義の一致に懐疑。kan→kam→kamiを考える場合、むしろ「上」との近接に留意したい。 | 不採 |
11 | 甲比 | kapi | 穴 | kaFi | 峡 | 音の対応は良いが語義の一致に懐疑 | 不採 |
12 | 加尸 | kar | 鋤、犁 | kar- | 刈る | 記の都牟刈之大刀、紀の大葉刈に徴して賛同。閉音節karにiを加えて和語カリ。動詞「刈る」でなく名詞で良い | 賛同 |
14 | 今勿 | k∂mur | 黒 | kuro | 黒 | 第2子音不一致。一例のみ。新羅サイドで黒と黄があり語義も不安 | 不採 |
15 | 斤〜斤乙 | kil/kir/kin | 木 | ki/ko2i- | 木 | 最終子音を脱落させねばならず私のルール違反となる。これは不採だが次行が良い |   |
15 | 持 | γey | 木 | ki/ko2i- | 木 | これは二重母音があり、乙類のキに相応しいように伺える[21栗木郡(一云冬斯持)] | 賛同 |
17 | 居尸 | kor | 心 | ko2ko2ro2 | 心 | 和語は「居尸」を繰り返したもの、コロコロを仮設し、ココロとなったとする考え方。そのような語構造のものは高句麗語をベースとしたものの他例がない。 | 不採 |
18 | 古衣 | koγoi | 鵠 | koFu | 鵠 | 擬音語の恐れ有り | 不採 |
20 | 功木 | kun[m] | 熊 | kuma | 熊 | [45功木達(一云熊閃山)]が根拠だろうが「閃」の説明がない(できない?)熊が他の字で示されているかもしれないものはこれ一例のみ | 不採 |
21 | 古斯 | kvsi | 玉 | kuciro2 | 飾り腕輪 | 和語「奇し」も考え賛同。「櫛玉」も「古斯・玉」という「高句麗語+和語」の翻訳畳語構造であろうか。(からすき=kar+鋤、のように)但し和語のro2の説明は必要 | 賛同 |
22 | 古次/串 | kvci/kuar | 口 | kuti | 口 | 村用語として認識する | 賛同 |
23 | 忽 | ku∂r | 城 | ki | 城 | 閉音節に母音を付加する私のルールに違反(第2子音が不合致) | 不採 |
25 | 馬 | ma | 馬 | ma | 馬ウマ | 借用語であろうと思われる。但し中国語も北方から借用したのかもしれない | 不採 |
26 | 買尸 | meir | 蒜 | mira | 韮 | これは綺麗に対応している。韮「みら」の「み」は甲類。下のmey=水、とも整合する。 | 賛同 |
27 | 滅烏 | meru | 駒 | ma | 馬 | 上の馬と同様 | 不採 |
28 | 買 | mey | 水、川 | mi | 水 | mey(また26のmei-)が和語ではミの甲類に対応する、という情報として有用 | 賛同 |
30 | 密 | mir | 三 | mi | 三 | 閉音節、第2子音不合致。mey/meiをミの甲類とすると、miも甲類であることが難しくなるか。半島内部での密・三・推(訓がmir)の関連度は高い | 不採 |
31 | 内米 | nami | 池、長池 | nami | 波 | 語形の対応は良いが語義が一致するとは判断しない。一例のみ | 不採 |
32 | 乃勿 | namur | 鉛 | namari | 鉛 | 語形は良いが、借用語と考えるべきだろう | 不採 |
33 | 難隠 | nanin | 七 | nana | 七 | 上記のように難=七、の可能性が捨て去れない。ツングース諸語のnadan=7にも惹かれる | 留保 |
34 | 奴 | na | 壌 | na | 地 | 和語に積極的には「ナ=地」の語義がない。オホナムチなどから想像はされるが | 留保 |
35 | 耐〜那 | na | 内 | na | 中 | 内は壌に対応する例が多い。用例をもう少し調べたいが、語形・語義共によい | 賛同的留保 |
36 | 巴衣 | pa'iy | 巌、岩 | iFa | 岩 | 音(語形)が違い過ぎる | 不採 |
38 | 波旦 | patan | 海 | wata | 海 | 波且とする本もある。「66永豊郡 *大谷郡」で豊をタンと読み、[155波且縣(一云波豊)]から且は旦の誤り、とすることも可能 | 賛同 |
40 | 伏 | puk | 深 | Fuka- | 深い | 母音追加の語形は良い。一例のみ | 賛同的留保 |
41 | 沙伏 | saipuk | 赤 | so2Fo | 赤土 | むしろ沙非を取りたい参考 | 賛同 |
43 | 尸臘 | sirap | 白 | siro:sira- | 白 | 四音に渡り合致を見るも、最終子音が気になる。(出典不明) | 賛同的留保 |
45 | 首/烏 | su/v | 牛 | usi | 牛 | 烏斯の語形を採るのが良くないか | 賛同 |
46 | 首 | su | 新 | sa- | 若い | 一音節だけであり母音が異なるのが不安。他にu→aの例ありや?「新」は高句麗地名では一例のみ「65守鎮縣 *首知縣[65首知縣(一云新知)]」を見るに音通だけではないか。百済地名に「P020(新羅)新平縣は本百済の 沙平縣」というのがある。「沙」が百済語で「新」の意味だった、という可能性がある。 | 不採 |
48 | 達 | tar | 高 | take2 | 岳、山 | 達が高・山を示すのは良いが、和語はタラ、タリ、タル、タレ、タロあたりであろう。つまり第2子音不合致 | 不採 |
50 | 徳 | tok | 十 | to2wo | 十 | 第2子音不合致 | 不採 |
52 | 助乙 | tsi(ir) | 道 | (mi-)ti | 道 | 一例のみ | 留保 |
53 | 烏斯含 | usiγam | 兎 | usagi | 兎 | 烏斯・含と区切って牛・峯の可能性が残る参考 | 否定的留保 |
54 | 于次 | uc | 五 | itu | 五 | 語形語義ともに良い。但し一例のみ | 賛同的留保 |
57 | 也尸 | yar | 狂、狸 | tanuki | 狸 | 語形全く異なる | 不採 |
58 | 要隠 | yawin | 楊 | yanagi:yanoki | 柳 | ヤナ・木と解く | 賛同 |
59 | 烏 | v | 猪 | wi | 猪 | 牛との弁別が可能か、同語か | 賛同 |
60 | 奈 | na/nay | 竹 | no2 | 矢の竹 | [151竹紛縣(一云奈生於)]竹=奈生、紛=於の可能性はないか。百済地名の [洸陵夫里郡(一云竹樹夫里、一云仁夫里)]でも竹の頭子音がnでありそうだ。於は「お」だが和語「を=峰」 | 留保 |
61 | 旦 | tan | 谷 | tani | 谷 | 最終子音を脱落させずに母音をつけて和語と対比するというルールを決めたのはこの例による | 賛同 |
63 | 於乙 | uir | 泉井 | iri/wi | 泉/井 | 和語語形としてはiriが好ましいがiriが和語である担保に欠ける。「泉」蓋蘇文を「イリ」ガスミと読むのだがそれが和語とは言えない。外人名を仮名書きしたものに過ぎないだろうから。 | 否定的留保 |
65 | 乃 | n∂ | 属格・修飾辞 | no2,na,nga | 属格・修飾辞 | 単音節で語義が広そうなので判定は敬遠 |   |
66 | 斯/史 | si | 属格・修飾辞 | si | 属格・修飾辞 | 単音節で語義が広そうなので判定は敬遠 |   |
67 | 於 | u | 派生名詞形成辞 | i- | 派生名詞形成辞? | 単音節で語義が広そうなので判定は敬遠 |   |
以上を総括すると、最後の3語を除いた44語(内、基礎語彙に規定されるもの19語)に関して、
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