日本語と高句麗語は同源か?3
語形と語義
orig: 2004/07/15
rev2: 2004/08/03 随所改訂

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下表には板橋論文に抽出された高句麗語から日本語と同源とされるものを抜き出した。各語に対して自分なりの検討をした。基本的な考え方は
  1. 閉音節の高句麗語彙を日本語に対応させる際に、最終子音を脱落させる場合と、最終子音に母音を追加している場合がある。これは音韻法則としては、どういう場合に脱落となり、どういう場合に母音追加となる、という規則が提示されないと恣意性が高い。
  2. 恣意性を排除するために、ここでは、閉音節の語にはその最終子音に母音(今のところ任意の母音とする)が追加となって和語と対応する、というルールを仮設して、それで判定の基準とする。
  3. これは、母音の一致は求めないので、CVC以上の語に関しては同源とするならば、第1子音と第2子音が一致することを要求することと等価である。
  4. 一音節(VCまたはCV)の語については、同源の判定には、子音の一致を要求し、母音の一致については、「ゆるやかな」一致を要求する。「ゆるやか」に関しては、判定基準に私の恣意が残っている。
  5. 対応が一例しかない(と思われる)ものは他に問題がなければ「留保」とする。ことに、一見対応している別の例がある場合は、データの選択に恣意が伏在する恐れがある。

番号KG漢字KG音KG意味OJ音OJ意味検討・討議(discussion)判定
1biarFe七重縣=難隠別が根拠だろうが、七=難隠、重=別、と区切る根拠が薄弱である。各論参照。別が村落を表す村用語の可能性もあり、七=難、隠=重、別=縣、という対応関係も可能であり、これの否定が求められる。別と重が対応する可能性のあるのはこれ一例である。第2子音が和語では脱落している〜ルールに合わない否定的留保
4次若ciniatuno80a [92 牛首州 (首一作頭。一云首次若。一云烏根乃)] 一例のみ。また140満卿(一作郷)縣 本高句麗 満若縣 では若の音はケイに近そう留保
6盒馬γapma大山yama和語tawa/dawa(峠)も要検討賛同
7gu童,童子ko1子どもこの根拠は巻37の[29童子忽縣(一云仇斯波衣)]であろう。板橋B10では仇ku=松、ともある。[91夫斯波衣縣(一云仇史)]から来たものだろう。しからば仇史≒仇斯=松であろう。童、童子との対応可能性は一例。但し、「144 童山縣 *僧山縣 [141僧山縣(一云所勿達)]がある。これを見るなら「童=僧=所勿」となろうか留保
8i-i-r入る高句麗語に無い音の追加をしている。[116水入縣(一云買伊縣)]が根拠であろうが、百済の「P130 伯醗縣 ●水川縣 [水川縣(一云水入伊)]」と見るに疑念が残る不採
10kan首〜頭kauFe<*kami-Fe?,
kasira,kabu,
kami,kaFo
頭、頭髪、顔第2子音不一致。閉音節に母音付加しても相当和語不明。語義の一致に懐疑。kan→kam→kamiを考える場合、むしろ「上」との近接に留意したい。不採
11甲比kapikaFi音の対応は良いが語義の一致に懐疑不採
12加尸kar鋤、犁kar-刈る記の都牟刈之大刀、紀の大葉刈に徴して賛同。閉音節karにiを加えて和語カリ。動詞「刈る」でなく名詞で良い賛同
14今勿k∂murkuro第2子音不一致。一例のみ。新羅サイドで黒と黄があり語義も不安不採
15斤〜斤乙kil/kir/kinki/ko2i-最終子音を脱落させねばならず私のルール違反となる。これは不採だが次行が良い 
15γeyki/ko2i-これは二重母音があり、乙類のキに相応しいように伺える[21栗木郡(一云冬斯)]賛同
17居尸korko2ko2ro2和語は「居尸」を繰り返したもの、コロコロを仮設し、ココロとなったとする考え方。そのような語構造のものは高句麗語をベースとしたものの他例がない。不採
18古衣koγoikoFu擬音語の恐れ有り不採
20功木kun[m]kuma[45功木達(一云熊閃山)]が根拠だろうが「閃」の説明がない(できない?)熊が他の字で示されているかもしれないものはこれ一例のみ不採
21古斯kvsikuciro2飾り腕輪和語「奇し」も考え賛同。「櫛玉」も「古斯・玉」という「高句麗語+和語」の翻訳畳語構造であろうか。(からすき=kar+鋤、のように)但し和語のro2の説明は必要賛同
22古次/串kvci/kuarkuti村用語として認識する賛同
23ku∂rki閉音節に母音を付加する私のルールに違反(第2子音が不合致)不採
25mama馬ウマ借用語であろうと思われる。但し中国語も北方から借用したのかもしれない不採
26買尸meirmiraこれは綺麗に対応している。韮「みら」の「み」は甲類。下のmey=水、とも整合する。賛同
27滅烏meruma上の馬と同様不採
28mey水、川mimey(また26のmei-)が和語ではミの甲類に対応する、という情報として有用賛同
30mirmi閉音節、第2子音不合致。mey/meiをミの甲類とすると、miも甲類であることが難しくなるか。半島内部での密・三・推(訓がmir)の関連度は高い不採
31内米nami池、長池nami語形の対応は良いが語義が一致するとは判断しない。一例のみ不採
32乃勿namurnamari語形は良いが、借用語と考えるべきだろう不採
33難隠naninnana上記のように難=七、の可能性が捨て去れない。ツングース諸語のnadan=7にも惹かれる留保
34nana和語に積極的には「ナ=地」の語義がない。オホナムチなどから想像はされるが留保
35耐〜那nana内は壌に対応する例が多い。用例をもう少し調べたいが、語形・語義共によい賛同的留保
36巴衣pa'iy巌、岩iFa音(語形)が違い過ぎる不採
38波旦patanwata波且とする本もある。「66永豊郡 *大谷郡」で豊をタンと読み、[155波且縣(一云波豊)]から且は旦の誤り、とすることも可能賛同
40pukFuka-深い母音追加の語形は良い。一例のみ賛同的留保
41沙伏saipukso2Fo赤土むしろ沙非を取りたい参考賛同
43尸臘sirapsiro:sira-四音に渡り合致を見るも、最終子音が気になる。(出典不明)賛同的留保
45首/烏su/vusi烏斯の語形を採るのが良くないか賛同
46susa-若い一音節だけであり母音が異なるのが不安。他にu→aの例ありや?「新」は高句麗地名では一例のみ「65守鎮縣 *首知縣[65首知縣(一云新知)]」を見るに音通だけではないか。百済地名に「P020(新羅)新平縣は本百済の 沙平縣」というのがある。「沙」が百済語で「新」の意味だった、という可能性がある。不採
48tartake2岳、山達が高・山を示すのは良いが、和語はタラ、タリ、タル、タレ、タロあたりであろう。つまり第2子音不合致不採
50tokto2wo第2子音不合致不採
52助乙tsi(ir)(mi-)ti一例のみ留保
53烏斯含usiγamusagi烏斯・含と区切って牛・峯の可能性が残る参考否定的留保
54于次ucitu語形語義ともに良い。但し一例のみ賛同的留保
57也尸yar狂、狸tanuki語形全く異なる不採
58要隠yawinyanagi:yanokiヤナ・木と解く賛同
59vwi牛との弁別が可能か、同語か賛同
60na/nayno2矢の竹[151竹縣(一云奈生於)]竹=奈生、=於の可能性はないか。百済地名の [陵夫里郡(一云竹樹夫里、一云仁夫里)]でも竹の頭子音がnでありそうだ。於は「お」だが和語「を=峰」留保
61tantani最終子音を脱落させずに母音をつけて和語と対比するというルールを決めたのはこの例による賛同
63於乙uir泉井iri/wi泉/井和語語形としてはiriが好ましいがiriが和語である担保に欠ける。「泉」蓋蘇文を「イリ」ガスミと読むのだがそれが和語とは言えない。外人名を仮名書きしたものに過ぎないだろうから。否定的留保
65n∂属格・修飾辞no2,na,nga属格・修飾辞単音節で語義が広そうなので判定は敬遠 
66斯/史si属格・修飾辞si属格・修飾辞単音節で語義が広そうなので判定は敬遠 
67u派生名詞形成辞i-派生名詞形成辞?単音節で語義が広そうなので判定は敬遠 


以上を総括すると、最後の3語を除いた44語(内、基礎語彙に規定されるもの19語)に関して、
  • 上に上げた条件で同源か否かを判定すれば
  • 賛同13,留保13,不採18である。
  • 基礎語彙の範疇では賛同6,留保5,不採8,である。
  • 殆ど頭子音の一致だけで同源だ、とすれば、44語を同源とすることになる
  • 当然、条件を厳しくすれば同源と判定できる語数は減少する。目的に応じた条件設定、ということも可能であるから、いずれが絶対的に正で、他方が絶対的に誤だ、ということはない。

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