ミトコンドリアDNAの可能性と限界・9
クラスター分析を見るときの注意
orig: 2002/01/30

宝来聡著『DNA人類進化学』p102に日本人、琉球人、アイヌ、韓国人、中国人のミトコンドリアDNAのクラスター分類図が出ている。

これに基づき、日本人固有のパターンをもっている日本人は4.8%に過ぎず、「本土日本人の計50%は、大陸系(中国人と韓国人の両方)の特異性をもつクラスターに含まれることになった。」等の結論を述べている。

これはこれで、間違っていないのではあるが、内容を良く理解しないと、大きな誤解につながりそうだ。つまり、ははぁ、本土日本人の半分は大陸系の出自なんだ、等々。それはちょっと待てよ、とこの研究を良く理解してみたい。

静岡、沖縄、北海道、韓国、中国からそれぞれ50〜66のサンプルを集めて、MtDNAのDループのパターンを調べて、それの近似度を系統図にまとめたところ、18のクラスターに分類できた。各クラスターにおいて何人が一番多いかを調べ、そのクラスターの「特異性」だ、と名づけた。例えばクラスターC2には、静岡人11人、沖縄人4人、アイヌ0、韓国人5人、中国人13人が入っていたので、このクラスターの特異性を「中国人」と名づけた、というものだ。

そういう定義であるから、たまたま、C6の場合だと、日本人5、沖縄人5、アイヌ2、韓国人3、中国人5、が入っているので名づけようがなく特異性の欄には「---」と書いてある。

さて、このクラスター、群、グループの中に属する人たちはどれほど近縁なのだろうか。同じクラスターに属していても、DNAパターンが全く同じ人たちもあれば、トーナメント試合の組み合わせ表のような線を辿ってみると、5乃至6段のレベルを移動しないと、共通の母に行き着かない人もある。もし、この図で、レベルが一段違うことが少なくとも塩基一つの違いと考えれば、それは平均12,000年の経過に相当するというから、5〜6段の違いは6〜7万年以前まで遡れば共通の母に到達する。そういう人たちの群なのだ。

更に注意をしておかねばならないことは、MtDNAは母系のことだけが判るものだ、ということだ。また、共通の母に遡るとしても、その母が何処にいたのかは、この研究からは出てこない。そして、定量的なことを云うのに一億二千数百万人の日本人の内の60人ほどのサンプルで何か言えるのだろうか、ということにも注意が要るだろう。

こういうことを考えると、頭書のような「本土日本人の半分は大陸系の出自なんだ」という単純な結論にはとても走れない、ということが判るだろう。

ミトコンドリアDNAは何を教えてくれるか?
はじめにミトコンドリアとは?
D-ループ遺伝に関わらないMtDNAの一部
利点と弱点MtDNAによる系統研究の弱点
何が判ったのか落ち着いて考えよう
12,000年の意味あくまでも平均である
アイヌと琉球人の遺伝的距離触れられない事実
再び、アイヌと琉球人の遺伝的距離篠田謙一さんの発見
三種類の縄文人?何を意味するのか?

たけ(tk)氏による「ミトコンドリア・シミュレーター」の紹介
ミトコンドリア関係リンク

日本語とアイヌ語;それらの縄文語、渡来語、弥生語との関連模式図
アイヌ語と縄文語の関係(人類学の知見)
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