クラスター分析を見るときの注意 |
宝来聡著『DNA人類進化学』p102に日本人、琉球人、アイヌ、韓国人、中国人のミトコンドリアDNAのクラスター分類図が出ている。 これに基づき、日本人固有のパターンをもっている日本人は4.8%に過ぎず、「本土日本人の計50%は、大陸系(中国人と韓国人の両方)の特異性をもつクラスターに含まれることになった。」等の結論を述べている。 これはこれで、間違っていないのではあるが、内容を良く理解しないと、大きな誤解につながりそうだ。つまり、ははぁ、本土日本人の半分は大陸系の出自なんだ、等々。それはちょっと待てよ、とこの研究を良く理解してみたい。 静岡、沖縄、北海道、韓国、中国からそれぞれ50〜66のサンプルを集めて、MtDNAのDループのパターンを調べて、それの近似度を系統図にまとめたところ、18のクラスターに分類できた。各クラスターにおいて何人が一番多いかを調べ、そのクラスターの「特異性」だ、と名づけた。例えばクラスターC2には、静岡人11人、沖縄人4人、アイヌ0、韓国人5人、中国人13人が入っていたので、このクラスターの特異性を「中国人」と名づけた、というものだ。 そういう定義であるから、たまたま、C6の場合だと、日本人5、沖縄人5、アイヌ2、韓国人3、中国人5、が入っているので名づけようがなく特異性の欄には「---」と書いてある。 さて、このクラスター、群、グループの中に属する人たちはどれほど近縁なのだろうか。同じクラスターに属していても、DNAパターンが全く同じ人たちもあれば、トーナメント試合の組み合わせ表のような線を辿ってみると、5乃至6段のレベルを移動しないと、共通の母に行き着かない人もある。もし、この図で、レベルが一段違うことが少なくとも塩基一つの違いと考えれば、それは平均12,000年の経過に相当するというから、5〜6段の違いは6〜7万年以前まで遡れば共通の母に到達する。そういう人たちの群なのだ。 更に注意をしておかねばならないことは、MtDNAは母系のことだけが判るものだ、ということだ。また、共通の母に遡るとしても、その母が何処にいたのかは、この研究からは出てこない。そして、定量的なことを云うのに一億二千数百万人の日本人の内の60人ほどのサンプルで何か言えるのだろうか、ということにも注意が要るだろう。 こういうことを考えると、頭書のような「本土日本人の半分は大陸系の出自なんだ」という単純な結論にはとても走れない、ということが判るだろう。 |
ミトコンドリアDNAは何を教えてくれるか? | |
はじめに | ミトコンドリアとは? |
D-ループ | 遺伝に関わらないMtDNAの一部 |
利点と弱点 | MtDNAによる系統研究の弱点 |
何が判ったのか | 落ち着いて考えよう |
12,000年の意味 | あくまでも平均である |
アイヌと琉球人の遺伝的距離 | 触れられない事実 |
再び、アイヌと琉球人の遺伝的距離 | 篠田謙一さんの発見 |
三種類の縄文人? | 何を意味するのか? |
たけ(tk)氏による「ミトコンドリア・シミュレーター」の紹介 |
ミトコンドリア関係リンク |