アイヌと琉球人の遺伝的距離 |
アイヌ、琉球人、本土日本人、韓国人、中国人のMtDNAを調査したものがある。サンプル数はそれぞれの集団で50から66である。各集団ともそれぞれ独自の塩基パターンを持っているものが多数であった。各集団のサンプルの67-94%ほどは、パターンが他の集団と共通していない、独自のパターンを持っていることが判った。残りが集団間に共通なパターンを持つサンプルであり、その様相を幾つか抜書きしてみる。
1.アイヌと琉球人の間には共通パターンがない ここら辺が、よく注目されるもので、アイヌと琉球人は思ったよりも遺伝的に遠い、と指摘されることになる。 ところが、データをよくみると、中国人と本土日本人の間にも共通パターンがないし、中国人と琉球人の間にも共通パターンがない。どういう訳だろうか。「直感的」だが、おかしくないか?これに関して解説もなければ、全く触れられていない。徐福伝説に依らないまでも中国人の一部と日本人の一部って遺伝関係ありそうじゃないか?また琉球と中国の関係だって濃かったはずだ。何故出てこない? A. ひとつにはサンプル数が少なすぎる、ということか? B. もうひとつの可能性は中国人は男性だけが日本/琉球にやってきたので、母系でしか遺伝しないMtDNAには現れないのか? これを考慮すると、アイヌと琉球人の遺伝的距離も、なるほど、このサンプル数で、かつ母系だけを考えた結論なのだ、と理解すべきなのだ。 億単位の人口に対しての50−60のサンプルを調べた場合には、一つでもあれば、何かが「有る」という結論は出せるだろう。しかし、何かが「無い」という結論はおろか、「無さそうだ」という見通しも危険すぎないだろうか。 [2001/10/23追記] さて、新しい研究成果が出てきた。『日本人はるかな旅1』(pp144-145)に注目すべきことが述べられている。縄文人の、ある塩基配列(約180文字){この本では配列2、と称している}は「本土日本人、韓国人、アイヌ人、沖縄人、カザフ人、ウイグル人、ブリヤート・モンゴル人、インド人など東ユーラシアを中心に広く分布している。配列3も、沖縄人7個体、本土日本人1個体、アイヌ人1個体と同一だったが、そのほかに多数のヨーロッパ人に同一配列が見出された。」 これはどういうことを意味するのだろうか。少なくとも三点が注目される。 1. 前半に掲げたように「アイヌと琉球人の間に共通パターンがない」とされていたのが、今や、見つかったのである。 [2003/2/12追記]正確には:短い塩基配列では見つかったが、長目の配列を見ると違っている、ということ。結局、分析する塩基配列の長さによって結論が異なる。つまり、いろんな説は16000個余りの塩基のうち、いくつを見て云っているのか、を良くみないと迷わされることになる。 2. 縄文人と韓国その他多数の東アジア種族との近縁も確かめられた。配列12は台湾の漢族1個体と同一だった、とも述べられており、縄文人と漢族とをつなぐ初の例ではないだろうか。 3. 宝来さんの研究では縄文人の塩基パターンが6配列見つかっていたが、篠田さんが中妻貝塚からの試料で9配列を追加し、現在15配列が見つかっている。更に、『日本人と日本文化NO.15』(p12)によれば、篠田さんの調査で、千葉県茂原市の下太田貝塚出土のサンプル(恐らく25体)から新たな縄文人の塩基配列(恐らく13パターン)が見つかっている。
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ミトコンドリアDNAは何を教えてくれるか? | |
はじめに | ミトコンドリアとは? |
D-ループ | 遺伝に関わらないMtDNAの一部 |
利点と弱点 | MtDNAによる系統研究の弱点 |
何が判ったのか | 落ち着いて考えよう |
12,000年の意味 | あくまでも平均である |
追補:アイヌと琉球人の遺伝的距離 | 触れられない事実 |
再び、アイヌと琉球人の遺伝的距離 | 12,000年以上離れているは虚 |
三種類の縄文人? | 何を意味するのか? |
クラスター分類の読み方 | 何を意味するのか? |
たけ(tk)氏の「ミトコンドリアDNA研究」の紹介 |
ミトコンドリア関係リンク |