初めに |
人の身体は約60兆個の細胞から成っているという。その細胞一つ一つに核があり、その中にDNAという遺伝物質が入っている。これは核内DNAと呼ばれ、螺旋状に毛糸をまるめたような形状をしていて、これを延長すると約2メートルの長さがあるという。約30億個の塩基があるといわれており、この糸状のものを構成している。その内約10万対の塩基が遺伝に関わっているようだ。 これに対して細胞の中だが、核の外にある細胞質に、ミトコンドリアという粒子がある。一つの細胞には数百個のミトコンドリアが存在している。一つのミトコンドリア内に5-6個のDNAが含まれている。つまり細胞一個に含まれるミトコンドリアDNAの数は千個以上という多数になる。核内DNAが細胞一個あたりに一個しかないことと対照的だ。このミトコンドリア粒子にもDNAが存在している。(以下、MtDNAと書くことがある。)一つのMtDNAは約16、500個の塩基からなる。 従ってMtDNAのサンプルは大量に収集できる、ということになる。MtDNAの特徴として、母親からのみ遺伝する、ということがある。これはヒトの系統を調べる上から利点でもあり弱点でもある。弱点に就いて述べているものは見たことがないから学ぶ人は良く注意して欲しい。利点と弱点 ミトコンドリアDNAのもう一つの特徴は、それが核内DNAよりも個体差が大きい、ということがある。これは、核内DNAにもし突然変異が起こるとその場所に依っては遺伝上致命的な場合が有り得る。つまり生命の維持に大いに不都合な突然変異が起ると、そういう変異を持った個体は淘汰されてしまい子孫が残らないことにもなろう。従って何十万年に亘って起こったであろう突然変異の一部しか生き残っていない。これに対してミトコンドリアDNAの一部であるD-ループと呼ばれる部分は、遺伝には関わらない。だから、長期に蓄積された突然変異がヒトの健康に何の影響もせず保存されている、ということになる。それで、ミトコンドリアDNAの方が人によって異なる場合が多い(言い方によっては、MtDNAの変異速度が核遺伝子のDNAの変異速度よりも大きい)ということになるのであろう。 サンプルが大量に取れて、塩基数が少なく、母系遺伝しかしない、そして、個体差の大きいという特徴のあるミトコンドリアDNAは、かくして人類の系統を調べるのに都合が良い。 |
ミトコンドリアDNAは何を教えてくれるか? | |
はじめに | ミトコンドリアとは? |
D-ループ | 遺伝に関わらないMtDNAの一部 |
利点と弱点 | MtDNAによる系統研究の弱点 |
何が判ったのか | 落ち着いて考えよう |
12,000年の意味 | あくまでも平均である |
追補:アイヌと琉球人の遺伝的距離 | 触れられない事実 |
再び、アイヌと琉球人の遺伝的距離 | 12,000年以上離れているは虚 |
三種類の縄文人? | 何を意味するのか? |
クラスター分類の読み方 | 何を意味するのか? |
たけ(tk)氏の「ミトコンドリアDNA研究」の紹介 |
ミトコンドリア関係リンク |